中国新興EVメーカーNIOがスマホを発売する狙い

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中国の電気自動車メーカーNIOが、新しいスマートフォンを発売しました。自動車メーカーがスマートフォンを開発し販売する狙いを考察します。

中国の電気自動車メーカーNioがスマートフォンを発売

中国の電気自動車メーカーNIOが、新しいスマートフォン「NIO Phone」を発売しました。このスマートフォンは電気自動車のオーナー向けに開発されたもので、このスマートフォンを使って、ドライバーは車を駐車したり、キーを開閉できるなどの連携機能が豊富に搭載されています。

NIO Phoneは中国でのみ販売され、価格は6,499元(約13万円)からです。価格はファーウェイの端末と比べて約2万円近く安く、価格競争力も見られます。

ストレージRAM
エントリー512GB12GB
ミドル1TB12GB
ハイエンド1TB16GB
NIO Phoneのラインナップ

3つのストレージとRAMのバリエーションが用意されており、販売・配送は中国国内でのみ9月28日に始まりす。

NIOがスマホを販売する狙い

NIOの狙いは利益を増やすことよりも、ユーザーデータの収集にあります。

現在、NIOが利益を得ているユーザーの半数以上はiPhoneを使用している人々とされており、NIOは、NIO Phoneを既存のNIOユーザに手に取ってもらい、車だけでは収集できないユーザーデータを集めることで、ドライバーにより良いサービスを提供することを目指しているようです。

スマホと車両で収集できるデータは異なる

項目自動車から収集できるデータスマートフォンから収集できるデータ
位置情報車の現在位置や移動経路ユーザーの現在位置や移動経路
動作・パフォーマンスデータエンジンの状態
燃費、タイヤの摩耗度
アプリの使用状況
バッテリー消費率
センサーデータABS、エアバッグの状態
外気温
加速度センサー
ジャイロスコープ
ユーザーの状態シートベルトの着用状況
運転手の注意散漫
ステップ数、睡眠パターン
生体認証データ
エンターテインメントラジオチャンネルの選局
車内オーディオの設定
音楽や動画の再生履歴
通信カーナビの検索クエリや通話履歴SMS、通話履歴
SNSの使用状況
ユーザーの設定車内温度設定、シート位置
ミラーの角度
スマホの画面の明るさ
言語設定
ストレージ情報車載カメラの録画データ
ナビのマップデータ
写真、動画、ドキュメント
アプリのデータ

NIOはユーザのデータを収集し、車の運転習慣、使用頻度、設定などから、ユーザーの好みやニーズを解析し、サービスのカスタマイズや改善に利用する可能性があります。

スマホと車両で、取得できるデータは異なります。これらを、お互いを補完する関係として、たらしいサービスや価値提供ができる可能性は大いにあります。

スマートフォンで睡眠時間や健康状態をモニタリングし、適切な運転休憩のタイミングを提案することや、写真やSNSの投稿から、ユーザーの興味や趣味に合わせた観光スポットやレストランを推薦するなど、提供できるサービスは多岐にわたります。

Sony Honda Mobilityの開発するEVは車体に多量のセンサーを搭載している

逆に、車のデータを使ってスマホの機能を拡張することもできそうです。大量のハードウェアやセンサを積んでいるEVは、スマホではできない周囲の空間認識データを使って新しい価値を提供できるかもしれません。

特に自動運転車に搭載されるLiDAR(Light Detection and Ranging)は、光を発射し、その反射を検出して物体の形や位置を特定する技術で、たとえばユーザーが車の前や周囲で動きながら3Dの形状や動きをキャプチャし、それを3Dアバターやモデルとして保存・編集して、生成AIがアニメキャラをかぶせてSNSに投稿するなど、「高度なハードウェアを用いたスマホではできないエンターテイメント」を提供できる可能性もあります。

Nio Phoneの発売は、中国のライバルメーカーにも影響を与えるかもしれません。ファーウェイは、スマートフォンと電気自動車を統合したAitoブランドをリリースしており、アップルやXiaomiも自社の電気自動車を開発していると言われています。NIOのスマートフォンの成功は、競合他社にも追随するきっかけになるかもしれません。

車との連携機能を多数搭載

NIO Phoneは、NIOの自動車と連携する機能を有しているとされています。スマートフォンからエアコンやシートマッサージャーの設定ができたり、電話で目的地を検索して車にナビゲーションを表示させたり、リモート会議をするために車載カメラを使ったりします。

車に自動的に駐車する機能や、スマートフォンで車のロックを解除する機能も搭載。バッテリーが完全になくなった時でも、ロック解除の機能はそのまま利用できるようです。

NIO PhoneはAndroidをOSとしQualcommプロセッサを搭載、画面のサイズは6.81インチで、カメラは5000万画素です。

NIO Phoneにはアクションボタン「NIO Link car control key」がついており、ユーザーは30の自動車関連機能のうち、1つをすぐに使うことができます。

NIOとは

NIOは、中国の新興EVメーカーです。中国版テスラとも呼ばれており、既に複数のEVを市場投入しています。EVだけでなく、電池技術やバッテリー交換技術にも開発の手を広げており、今回のようなスマートフォン事業への参入も素早く行っています。

ダッシュボードの上に設置されているスマートスピーカーが特徴的で、車両のデジタル化と電動化を推し進めている先進的な企業です。

NIOParkと呼ばれる大規模な拠点を建設しており、その広さは16,950エーカーであり、新宿区の3.5倍、テスラのフリーモント工場の12倍、トヨタのスマートシティの100倍の広さです。自動車製造拠点のほとんどに加えて、サプライヤー拠点も設置される予定とのことです。

中国市場は減速が進んでおり、BYDをトップとするEV関連メーカーの売り上げも伸び悩んでいます。NIOも例外ではありませんが、値下げ競争に安易に参加しないなど、独自路線を切り開こうとしている姿勢も見られます。

まとめ

中国の電気自動車メーカーNIOは、スマートフォン市場に進出することで、新しいビジネスチャンスを追求しています。その狙いは利用者のデータ収集が主だと考えられますが、

中国の消費者にとっても、より便利で先進的なスマートフォンの選択肢が増えることは利益があります。NIOは自社のエコシステムを強化し、競争の激しい市場で一線を画すことができるかもしれません。

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この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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