STANDARD ENERGYのバナジウムイオン電池は何が凄いのか?

次世代電池

STANDARD ENERGY社は、エネルギーストレージシステム(ESS)向けにバナジウムイオン電池を開発しています。

聞きなれない「バナジウムイオン電池」とは一体何なのでしょうか。

バナジウムイオン電池とは

バナジウムイオン電池(VIB)は、その名の通り、充放電プロセス中にバナジウムイオンが電解液内を移動することで動作する蓄電池です。韓国のSTANDARD ENERGY社が開発したバナジウムイオン電池は、リチウムイオン電池の高エネルギー密度と、バナジウムレドックスフロー電池の長寿命と安全性の両方の利点を組み合わせたものとされています。

バナジウムレドックスフロー電池は、両電極でバナジウムイオンを含む水溶液(電解液)を使用します。電解液は、正極側と負極側で異なる酸化状態のバナジウムイオンを含んでおり、これらのバナジウムイオンの酸化状態が変化することによって充電と放電が行われます。安全性が高く長寿命である一方で、リチウムイオン電池などと比較してエネルギー密度が低い欠点があります。

スタンダードエナジー社のVIB ESSの日本での販売は、正規販売店としてLBHunetが対応しているようです。

何が凄いのか?

STANDARD ENERGY社は、バナジウムイオン電池の長所として、以下の点をアピールしています。

  • 長寿命
  • 高いエネルギー効率
  • 5Cの急速充電能力
  • 高い安全性

長寿命

バナジウムイオン電池、は数千回の充放電サイクルに耐えることができ、長期間にわたって性能が維持されます。これは、バナジウム改質技術と表面電極技術を通じて、不可逆的な副反応を最小限に抑える技術が活用されています。長寿命化の肝はバナジウム電解質の改質と、電極表面の設計技術と考えられますが、詳細は明らかにされていません。

電解液の改質については、電解液に特定の添加剤を加えることや、電解液のpH値を調整する、バナジウムイオンの濃度や電解液中の他の成分の比率を調整することで、バナジウムイオンの溶解度や反応性を最適化し、電解液の安定性を向上させることができます。

電極材料の最適化については、電極の表面積を増やすことで、電解液との接触面積が増え、イオンの交換効率が向上します。例えば、多孔性のカーボン材料やナノ構造を持つ材料は、高い表面積を提供し、電極の反応性を向上させること、導電性が高い材料や、導電性を高めるためのコーティング技術を利用することなどが想定されますが、具体的にどのような手法が用いられているかまでは明らかにされていません。

高いエネルギー効率

バナジウムイオン電池のエネルギー効率は96%とされます。エネルギー効率96%は、バッテリーに供給されたエネルギーのうち96%が実際に有効に使われることを意味し、残りの4%が充放電プロセス中に損失として生じることを意味します。

大規模ESSにとって効率は重要です。エネルギーの損失が少ないほど、システム全体の運用コストを抑えることができ、より効率的にエネルギーを管理できます。

既存のリチウムイオン電池のエネルギー効率は、約85%から90%の範囲であるとされています。リチウムイオン電池のエネルギー効率も非常に高いですが、それを上回る効率でバナジウムイオン電池は運用できるとされています。

5Cの急速充電能力

バナジウムイオン電池は、5C*の急速充電能力を実現しています。冷却システムなしで連続的な高出力動作が可能であり、高効率材料技術と最適な熱管理設計により、従来のバッテリーよりも高出力を実現します。この冷却システム不要という点も、バナジウムイオン電池の強みとされています。

*1Cは、満充電の電池を1時間で完全に放電する際に流れる電流です。Cの値が大きいほど大きな電流を出力でき、充電速度が速くなります。

一般に4C以上の急速充電では、強力な冷却機構が必要な場合が多いです。豊田自動織機のバイポーラニッケル水素電池は、約30枚のセルを積み重ねて1つのモジュールに組み立て、それらは空冷で冷却されています。

高い安全性

バナジウムイオン電池は燃えにくく、熱暴走のリスクが低いです。水を主成分とするバナジウム電解液と新しいセル構造により、発火の危険性がありません。

バナジウムイオン電池のデメリット

バナジウムイオン電池は、リチウムイオンバッテリーに比べてエネルギー密度が低いことがデメリットです。同じ電池容量を得るためには、より大きなスペースが必要になることを意味します。

バナジウムイオン電池のエネルギー密度は公表されていません。バナジウムイオン電池の原理の元になっている、バナジウムを使用したレドックスフロー電池(VRB: Vanadium Redox Flow Battery)のエネルギー密度は約15〜35[Wh/L]の範囲にあります。これは、リチウムイオン電池のエネルギー密度が100〜250[Wh/L]程度であることと比較すると、バナジウムイオン電池のエネルギー密度はかなり低い値となりそうです。

「バナジウムイオン電池」など無い?

「バナジウムイオン電池」という電池には、懐疑的な見方があります。韓国では以下のような指摘をする人物もいます。

Vanadium Ion Batteries라는 ‘기술적으로’ ‘무의미한’ 트레이드 네임을 쓰는 데가 있는데, ‘우주광학 에너지’가 나오는 자석 목걸이, 이런 식으로 ‘지네 트레이드 네임’을 쓰는 것이지, ‘세상에 저런 계열’의 기술은 없습니다. – 트레이드 네임을 갖다가 기술적인 걸 물어보면, ‘그런 기술은 없습니다’라 합니다.

Vanadium Ion Batteriesという「技術的に」「無意味」なトレードネームを使うところがあるのですが、宇宙光学エネルギーが出るマグネットネックレス、こんな感じで「ムカデのトレードネーム」を使うのであって、「世の中にそんな技術なんてない」のです。トレードネームを持って技術的なことを聞くと、「そんな技術はありません」と言われます。

Chul W. Park(西城大学スマート自動車学科専任教授)

そもそもバナジウムイオン電池の動作原理のほとんどは「バナジウムレドックスフロー電池」であり、レドックスフロー電池と異なるのは、電解液供給用のポンプを無くし、エネルギー効率を向上させている点のみです。プロトン交換膜をイオン交換膜として正極・負極の分離に用いているようですが、これもレドックスフロー電池でも見られる工夫です。

面白い商品ではあると思いますが、バナジウムレドックスフロー電池の一種であり、商品名として「バナジウムイオン電池」と呼んでいる技術という理解が正しいでしょう。

まとめ

STANDARD ENERGYが開発するバナジウムイオン電池について解説しました。

レドックスフロー電池電池がもつメリットを生かしながら、エネルギー効率を高めた電池とのことです。

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この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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