ホンダと日産の協業をみて思うこと

日本

ホンダと日産は、「自動車の電動化、知能化に向けた戦略的パートナーシップの検討開始に合意し、基本合意書を締結」しました。この協業を見据えた合意を見て、同じ自動車業界で働く一人として筆者がおもうことを書きたいと思います。

具体的な内容は何も決まっていない

記者会見が中継されていたため、筆者も視聴しましたが、なにも具体的なことが決まっていない、ということが分かった程度です。ホンダの三部社長の冒頭あいさつの中で唯一「具体的」という前置きと共に唯一紹介されていたのが以下の内容です。

具体的には、自動車車載ソフトウェアプラットフォーム、バッテリーEVに関するコアコンポーネント、商品の相互補完など幅広いスコープで検討を進めてまいります。

2024年3月15日 三部敏宏(Honda)

EVに関する両社の技術を、できるだけ共有して車両を開発しよう、という理解と受け取りましたが、まだ検討段階であり具体的に話が進むかは当事者も分かっていないようです。これから経済合理性があるのか、 本当に業者にとってメリットにつながるのかを議論していくとも話していました。

1月の中旬ぐらいから協業の話を始めて、3月中旬の今発表したようです。まだ具体的なことが決まっていない段階でこの発表をしても、記者会見に参加した記者達も「なぜ今発表したの?」と感じたのではないでしょうか。

EV技術を共通化する

主にEVに関して、協業の焦点は以下であるとされています。

  • 自動車車載ソフトウェアプラットフォーム
  • バッテリーEVに関するコアコンポーネント
  • 商品の相互補完

それぞれについて、いくつかのワーキンググループを作って、 その中で詳細を含めて検討していくとのことです。特に、車載ソフトウェアとEVに関する部品に関しては、以下のような発言から、EVに関する部品やソフトウェアの量産効果によるコスト削減が、両社社長の頭の中にあるのではないかと感じます。

スケールメリットというのは重要な観点だというふうに考えております。特に電動化、知能化の領域は、台数増によるコスト低減効果というのは非常に大きいというふうに見ております。また、開発につきましても、両社の技術アプローチ、技術とか技術アプローチを共通化していくことによって、開発費も含めた資本の効率化を図ることができるというふうにも見ています。

2024年3月15日 三部敏宏(Honda)

車載プラットフォーム、EVコンポーネント、相互補完について、それぞれ考えてみます。

自動車車載ソフトウェアプラットフォーム

ここで言っている車載ソフトウェアやプラットフォームは、ユーザが普段見ているインパネ周りに加えて、自動車そのものを統合制御するためのソフトウェアプラットフォームの話をしているんだろうと思います。

トヨタ自動車でいうところのアリーンみたいなものです。トヨタは車を制御するソフトウェアプラットフォームとしてアリーンを今開発しており、アリーンを搭載した車両を2026年ごろに投入するとしています。同様のプラットフォームをフォルクスワーゲンも開発しており、日産とホンダも自分たちでソフトウェアプラットフォームを作るということを宣言したわけです。

ソフトウェアやプラットフォームの開発には非常に長い時間とお金がかかります。トヨタ自動車もアリーンを開発すると言い出したのが2018年頃で、そこから6年経った現在でも、アリーンが実際に車に搭載されている様は全く見えません。今から6年後の2030年、日産とホンダのソフトウェアプラットフォームが開発できるかどうかも注目すべき点です。

ホンダに関して言うと、ソニーと手を組んでEVを開発しており、SONYとの技術提携の兼ね合いもどうなるのか気になるところです。

バッテリーEVに関するコアコンポーネント

バッテリーEVに関するコアコンポーネントについては、ホンダの三部社長が会見中に「バッテリーとe-Axleである」と明言されています。

EVの心臓部とも言えるバッテリーシステムの開発は、性能やコスト、そして安全性に直接関わります。バッテリーの調達の共通化、バッテリーパックの共同開発や設計の効率化、バッテリーマネジメントシステムの共通化などによって、EV開発の効率化が期待できます。

電池セルに関しても、日産自動車は低価格のLFP電池の開発を進めており、2026年以降にEVへ搭載することを視野に、自社での生産を検討していると伝えられています。全固体電池についても、両社が技術開発を進めていることは知られています。これら技術が共有されれば、ホンダと日産により必要となる電池を両社で賄うことも視野に入ります。

e-Axleについては、構成部品である電動モータ、インバータ、減速機、電力配分装置、車載充電器、DC/DCコンバータなどの部品が対象になると考えます。それらを束ねてどのように車両に統合していくか、両社で開発していくのではないかと考えられます。

日産はルノー資本のEV新会社「アンペア」に出資しており、アンペア社との関係も含めて気になるところです。

両社ともに法令順守意識が高い(Openworkより引用)

両社は明確に「資本関係は結ばない」と宣言しています。資本関係がないなかで、どこまで踏み込んだ技術共有が成されるのかは疑問です。「商売敵」である両社が、すべての技術を開示して協業することは非常に難しいと言えます。今後実用化する新技術を共同開発するのであれば両社が同じ位置からスタートになりますが、既にどちらかが先行している分野では一方的に「Give」するだけになる可能性もあります。「この技術は協業の範囲で開示していいのだろうか…」と思い悩む姿も容易に想像できます。

「協業」というワードが、法令順守意識の高い、コンプライアンスで固まった組織である自動車メーカー内でどのように作用するのか、行く末が楽しみです。

商品の相互補完

ホンダと日産の商品の方向性は異なります。今回の協業では、商品(車)の中の部分を共通化して、味付けを変えていきたいのではないかと考えられます。

一方で、両社ともに幅広い車種を提供しており、市場でのポジショニングは似ている部分があります。当然、技術的な強みやブランドイメージには明確な違いがありますが、乗用車に関しては軽自動車から大型車両まで販売しているという点では共通しています。この相互補完の関係の嬉しさは、よりニッチなところで生きてくる可能性があります。

今回の協業はEVの話がメインではありますが、例えば日産の持っているe-powerの技術がホンダで使えるようになったり、ホンダが開発した燃料電池技術がそのまま日産に渡ったり、といったことが”もし”起こったら、と考えると楽しいですね。

2030年を見据えたとき

「2030年という段面で見てみますと、我々としてはそこでトップランナーでいたい、という強い思いがある」とホンダの三部社長は発言していました。ただ、現実はそう甘くはなさそうです。

中西孝樹氏著書の「トヨタのEV戦争」(2023年7月発売)には、ホンダと日産のシェアについて触れ、2030年の断面で以下のような厳しい状況を迎えると指摘しています。

中国と米国市場における苦戦が予想されるホンダや日産のシェアダウンは避けられそうにない。日本車メーカーの中でのシェア配分はトヨタが31%から41%へ、スズキが10%から14%へ大きく伸びるが、ホンダは19%から16%へ、日産は 17%から13%へ後退する予想だ。

同時に、同著書の中で、ホンダと日産の関係について以下のようにも述べています。

戦略に類似性があるなら、いっそのこと両社で組めるところはとことん手を握るのも大切な選択肢であるだろう。国内の軽自動車製造など、バラバラで進める意義は薄れている。国内販売でも手を結ぶことも可能ではないだろうか。国内自動車産業がトヨタの仲間とホンダの仲間に二分されるシナリオはあり得るだろう。

トヨタのEV戦争」の予測・提案が現実化している面白い例です。本書は自動車関係を含めてベストセラーになっており、トヨタ自動車を中心に世界の自動車市場の今後を考察している良書です。

まとめ

ホンダと日産がEV開発の資本効率化のために手を組んだという理解です。その効果は十分大きいと考えますが、資本関係がないなかで、どこまで踏み込んだ技術共有が成されるのかが課題です。

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