電解質膜

燃料電池

重要な物性

EW

燃料電池の電解質膜のEW(Equivalent Weight、等価重量)は、膜が水素イオン(プロトン)を伝導する能力を表す指標の一つです。EWは通常、1モルのプロトンを伝導するために必要な電解質の重量(g)を示します。EWが低いほど、同じ厚さの膜では高いプロトン伝導率を持ちます

ペルフルオロスルホン酸化ポリマー (PFSA)は主にNafionなどの商標名で知られています。EWは通常、1000以上であり、Nafion EW1100などの形で指定されます。ポリアリールエーテルケトン(PAEK)系ポリマーは、Nafionよりも高温で安定性が高いとされています。

PEM燃料電池における、極間の水の移動

水素社会を実現するための燃料電池技術の中で、特に重要でかつ難しいとされるのが、電解質膜の乾燥と、それを回避するための加湿です。

電解質膜は水をアノード・カソードで交換する材料でもあり、メカニズムとして主に、電気浸透とバックディフュージョンが考慮されています。

極間の水移動

燃料電池においては、極間の水の移動が重要な現象の一つです。この現象は燃料電池の性能と耐久性に大きく影響します。燃料電池における極間の水移動に関しては、「バックディフュージョン(back diffusion)」と、プロトンと一緒に水が移動する現象(電気浸透、electro-osmotic drag)があります。

バックディフュージョン(Back diffusion)

電解質膜を通じて水分子が高濃度側から低濃度側へ拡散する現象を指します。これは濃度勾配によって自然に起こります。

これカソード側(酸素が供給される側)で生成された水が、濃度勾配に従ってアノード側(水素が供給される側)へ逆流する現象です。燃料電池内での水分のバランスを保つために重要ですが、過剰なバックディフュージョンはアノード側の湿度過多を引き起こし、性能低下の原因となることがあります。

“Back diffusion”(バックディフュージョン)は、一般的に燃料電池内で水分子が高濃度の場所から低濃度の場所へ移動する現象を指しますが、特に燃料電池の文脈では、多くの場合、空気極(カソード)から燃料極(アノード)への水の逆拡散を指すことが多いです。これは、通常の動作中にカソード側で水が生成され、その水がアノード側へ移動することが一般的だからです。

しかし、水の移動は必ずしも”back”(後方へ)とは限りません。アノードが過度に湿っていてカソードが乾燥している場合、水分子はアノードからカソードへ移動する可能性があります。これは、濃度勾配に従った拡散であり、水分子は濃度の高い側から低い側へと移動します。このプロセスを英語で “water transport”(水の輸送)または “moisture crossover”(水分のクロスオーバー)と言うことができます。

ただ、バックディフュージョンによる水移動量を定量的に求めることは容易ではありません。以下文献では、シンプルなサーペンタイン流路とX線解析を用いて水の極間量を調べていますが、同じことをMIRAIなどのFC流路で行うことは容易ではないでしょう。

極間に圧力差がある場合には、高圧側から低圧側へと水が移動することもあります。

例えば、カソード側が高圧でアノード側が低圧の場合、高圧側から低圧側へと水(水蒸気や液体水)が移動する傾向があります。これは、圧力勾配による水の流れであり、物理的な力によって水分が推し進められる現象です。

電気浸透抵抗(Electro-osmotic drag, EOD)

電気浸透は、プロトンが電解質膜を通過する際に水分子を引き連れて移動する現象を指します。この効果は、プロトンが水分子と結合して膜を通過する際に、それらの水分子が一緒に移動することによって起こります。

プロトン(H+)が電解質膜を通過する際に、水分子を引っ張って移動する現象を指します。この現象により、アノードからカソードへ水が移動します。プロトンが移動する際に一定数の水分子をドラッグし、これが特に高温での運転や低湿度条件下での燃料電池性能に影響を及ぼします。

電気浸透のメカニズムは、電流密度とともに増加するため、高電流密度での動作には特に重要になります。電流密度では、膜内の強い電気浸透抵抗 (EOD)がアノード側の膜脱水やカソード電極近くのフラッディングを引き起こす可能性があり、さらに重大な性能低下を引き起こす可能性があります。

DOE係数には諸説ある

電気浸透量による水移水分子の移動の「量」に関する研究は数多く行われていますが、特に含水量の低いナフィオン膜の電気浸透抵抗 (EOD) 係数については、依然として議論が尽きないところです。

EOD 係数 nd は、プロトンあたりに膜を通って移動する水分子の数として定義され、これまでのところ数人の研究者によって測定および予測されています。含水率に線形に近似されるとするものや、nd がほぼ一定で水分含量がゼロに近づくにつれてEOD係数もゼロに向かって急激に低下するとするもの、そもそも一定値であるもの、と諸説があり、結論も出ていません。

“Electro-osmotic drag”という表現には、電解質膜を通るプロトン(陽イオン)が水分子を引き連れて移動するという現象が含まれています。ここでいう”drag”(ドラッグ、引きずり)は、文字通りプロトンが水分子を”引きずって”移動する様子を表しています。この現象は、プロトンが膜を通過する際に周囲の水分子と一緒に移動することで、水分子が一方向に移動することを意味します。

この”drag”が使用される理由は、プロトンの移動が直接的に水分子の移動を促進することを強調しているためです。つまり、プロトンの移動によって水分子が特定の方向に”引っ張られる”ことを指します。この過程は、電解質膜の片側から反対側への正味の水の移動を引き起こし、これが燃料電池の性能や水管理に影響を与えます。

“Drag”という用語が使われるもう一つの理由は、この現象が燃料電池の運用において考慮すべき力学的な”抵抗”の一種と見なされるからです。しかし、これを物理的な抵抗と考えるよりは、プロトンの移動に伴って水分子が移動することによる影響や効果の方を指すことが多いです。プロトンが多くの水分子を引き連れると、特に水管理や膜の湿度状態の維持において、重要な役割を果たします。

熱浸透抵抗(Thermo-osmotic Drag)

熱浸透 (Thermo-osmotic Drag)は、燃料電池内の温度勾配によって引き起こされる水の移動です。この現象は、温度の高い側から低い側への水の移動を促進します。カソード側で水が生成され、アノード側に比べて温度が高い場合、この熱浸透により水がアノード側へ移動することがあります。

しかし、熱浸透の抵抗はバックディフュージョンほど研究されておらず、よく理解されていません。

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この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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