ホンダが第二世代の燃料電池システムを2024年に発売すると発表されました。EV一辺倒ではカーボンニュートラルの実現が難しいとされている近年において、各社燃料電池にも目を向け始めています。
同じ自動車業界では、ボッシュも燃料電池システムを開発・販売しています。ボッシュの技術力はどの程度なのか、解説します。
燃料電池とボッシュ
燃料電池は、水素と酸素から電気を取り出す発電機です。
SOFC(固体酸化物燃料電池)とPEMFC(膜式酸化物質燃料電池)が主流です。
PEMFCは低温で動作するため、燃料電池自動車(トヨタ自動車のMIRAIなど)に搭載されています。加熱の必要がないと同時に、低価格な材料が使用可能です。
SOFCは高温で動作するため、始動性が悪く車への搭載には向いていませんが、高いエネルギー効率を実現し、家庭用エネファームなどに搭載されています。
ボッシュは、自動車向けと発電用の定置型の両方を開発・生産しています。温暖化ガスを実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現には電気自動車(EV)だけでは不十分として、水素を使う燃料電池の需要が高まるとみているようです。
参考:
日産自動車は、SOFCを車載することを目指し、メタルサポートセルを開発しているそうです。こちらの記事で解説しています。→日産の燃料電池(SOFC)のメタルサポート技術とは何か?性能は?
PEMFCシステム
ボッシュのFCV向けのPEMFCは、ドイツと中国で生産する予定です。ボッシュのサイトで公開されているスペックは以下の通り。
商用車向け | ||
---|---|---|
出力 | 最大70kW | 最大132kW |
出力密度 | 0.42 kW/L | 3.6 kW/L |
温度 | -25℃始動可能 | 80℃以下で稼働 |
耐久性 | 最大20,000h | 最大6000h |
中国では商用車メーカーの慶鈴汽車集団(けいれいきしゃ、ISUZUの中国合弁、小型トラックを生産)との合弁会社を設立し、中国の自動車メーカー向けに燃料電池システムを生産・販売するとしています。
ボッシュは、PowerCell (スウェーデン)とスタックの共同開発・生産を目的とした提携を結んでいます。
その他詳細は公開されていません。
SOFCシステム
2024年の生産開始するボッシュのSOFCシステムは、発電効率60%以上、排熱回収も含めるとシステム全体で85%以上となります。
セルの発電効率60%は、優秀なSOFCセルといえます。
以上石炭火力発電は40%、ガス火力発電は45%と比較しても、総合効率85%も競争力のある数字と言えます。
開発する10kWのシステムは、燃料電池スタックを2台搭載しており、このスタックには数百枚のセルが搭載されるとされています。
ボッシュのSOFCシステムの稼働条件は公開されていませんが、日本でSOFCを商用化している京セラの稼働条件を参考に、仮に100cm2のセルで電流密度0.3[A/cm2]、セル電圧が0.8[V]と仮定すると、セル200枚でスタックを構成すれば、発電量は4.8kWとなり、2台で10kW級のシステムとなります。
また、京セラの円筒平板と異なり、平板型であることを加味すると、電流密度は更に上げることが可能とも考えられます。
燃料電池のセルはセレス社のSteelCellであり、これは金属支持型と呼ばれる構造をしています。
SOFCの動作温度一般的に700-900℃の範囲で、ボッシュは熱回収に使うガスの排熱温度を200℃と発表しています。
ボッシュのFC関係の論文
ボッシュのFCに関する技術力を図るために、ボッシュが出している論文を調査しました。
ボッシュの論文には、定置用と考えられるSOFCに関する論文と、車載用のPEMFCの論文が含まれます。
論文の内容は、燃料電池の設計に資する高度なものが多く、技術力の高さに目を見張ります。
Modeling of Two Phase Flow in a Hydrophobic Porous Medium Interacting with a Hydrophilic Structure(親水性構造体と相互作用する疎水性多孔質体内二相流のモデリング,2022)では、より実際的な燃料電池課題に取り組んでいます。
まとめ
ボッシュのPEMFCとSOFCを紹介しました。
既に商用化に向けて大きく前進しており、高い技術力を有していることが分かります。
ボッシュのフォルクマル・デナー社長は「電動化も進めるが、水素にも備えている」と強調し、欧州連合(EU)の政策がEV偏重だと指摘しています。
サプライヤーとしてボッシュが燃料電池技術を持つようになれば、FCVの開発を迫られた欧州OEMが、ボッシュに技術力で説き伏せられる時代が来るかもしれません。
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