リチウムイオン電池の部品であるバッテリーパウチ。パウチの世界シェア1位にあるのが大日本印刷(DNP)です。
DNPがなぜ世界シェア1位の座を守り続けられるのか、業界の目線から解説します。
大日本印刷(DNP)とは
日本の大日本印刷(DNP)は1876年に設立され、印刷技術を活用して幅広い分野で活躍してきました。最近では、リチウムイオン電池パウチの製造やスマートフォンやタブレット用の有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ画面の開発などの事業を展開しています。
バッテリーパウチの市場シェア
バッテリーパウチは、電池の包装材の一種です。DNPはバッテリーパウチ市場の6~7割のシェアを持っており、特に車載用途では9割のシェアを持っています。最近は、海外の顧客ニーズにも対応するため、生産体制を世界規模で拡大しています。
DNPは2025年までにリチウムイオン電池用のバッテリーパウチ全体で1000億円の売上高を目指しています。現在のDNPの時価総額は8290億円ですが、EV用バッテリー市場の成長を背景に、将来的な成長も期待できます。
DNPはバッテリー以外にも、スマートフォン向けOLEDディスプレイ画面のメタルマスク市場を独占しており、ナノインプリンティング技術の開発にも取り組んでいます。
強さの理由は「品質」と「価格競争力」
DNPのバッテリーパウチの強さの理由は「品質」と「価格競争力」にあります。
韓国の大手電池メーカー3社(LG化学、サムスンSDI、SKオン)は、いずれもDNPからアルミパウチフィルムを調達しています。韓国企業が自国の部品ではなく、日本のサプライヤーから電池部材を調達することは珍しい例です。
韓国大手が国内でパウチを調達せず大日本印刷を採用する理由は、DNPは価格が安く、かつ高い品質を誇るためとされています。LG化学は、成形性や耐久性の点で、DNPのパウチが最も品質が高いと指摘しています。
パウチフィルムに求められる品質は成形性と耐久性です。液系の電池においては電解液をパウチ内に留め続ける必要があり、外部からの衝撃に対する強度や、化学的な耐久性が求められます。また、電池電極の形状に追従し、破けずにパウチが密着できる成型のしやすさが求められます。これらを高いレベルで両立し、量産品をバラツキなく安定して供給できるのがDNPなのです。
価格競争力もDNPの強みです。DNPのパウチフィルムは、中国では1平方メートルあたり3.6ドルから6.5ドルで販売されています。一方で、競争の激しい韓国では30%から50%安く販売し、競争の激しい市場で意図的に安い価格で販売する戦略をとっています。
DNPが韓国で意図的に安値で販売することは、他企業のアルミパウチフィルムの開発意欲を弱め、新規事業の進出を妨げる意図があるとされています。韓国の電池大手にとっても、安くて質の高いパウチを提供しているDNPから他のサプライヤーに乗り換えるメリットが無い状況になります。
DNPの高いシェアを受けて、競合企業も対策を講じています。LG化学はバッテリーパウチフィルムのサプライチェーンを日本依存から現地化するために、韓国企業との協力を目指しています。
ただ、既に高い品質を担保してくれるサプライヤーを変更したくない、というのが韓国電池大手の設計者の本音でしょう。調達リスク回避のためのサプライヤー変更は、問題は頻発する割に商品性には直結しない(電池性能は上がらない)ため、設計者は(できるならば)DNP品を継続して使いたいはずです。
パウチ型電池とアルミパウチフィルム
メリット | デメリット | |
---|---|---|
パウチ型電池セル | 軽量 空間効率が高い 形状が柔軟 カスタマイズが容易 | 破裂や膨張のリスクがある 保護回路の設計が必要 熱の拡散が不均一 |
円筒型電池セル | 耐久性が高い 一般的に熱的に安定 量産性が高い | 重量が重い 形状が固定されている 空間効率が低い |
角形(プリズム型)電池セル | 空間効率が高い 電池パックの設計が容易 | 耐久性が低下 熱的に不安定 |
バッテリーはパウチ型、円筒型、角形の3種類に分類されます。パウチ型は電極をパウチで包み、電池化するタイプです。アルミパウチフィルムはパウチ型電池の外装材として使われ、ナイロン、アルミ、PPフィルムの7~10層構造で作られています。
アルミパウチの重要な性能には、電解液に対する耐久性と成形性が求められます。耐久性は、バッテリーが充放電のプロセス中に耐えられるフッ化水素酸の生成に対する指標です。成形性は、パウチが深く成形できる能力を示します。成形性が高ければ、より多くの正極と負極を充填して容量を増やすことができます。
DNPによると、販売するバッテリーパウチのうち、スマートフォンやタブレット向けが40%、電気自動車向けが60%。電気自動車向けは急増しており、今後も継続した需要が見込めます。
全固体電池の実用化に向けて更に需要は増す
現在、車載電池として市場に出ている電池のうち、35%がパウチ型です。日産リーフに搭載されている電池も、パウチ型であることが知られています。
次世代の車載電池として期待される全固体電池は、そのほとんどがパウチ型となることが予想されています。充放電による膨張収縮を、円筒や角形では制御できず、実質的にパウチ型しか選択肢がない、というのが理由です。
2025年から2030年の間に実用化が期待されている全固体電池が主流になると、パウチ型が更に主流になると予測されています。
米国に新工場建設予定、リチウムイオン電池の包装材生産を開始
大日本印刷(DNP)は、アメリカのデビッドソン郡にリチウムイオン電池用の包装材の新工場を建設することを決定しました。この新工場には100億円が投資され、2026年度に稼働する予定です。DNPの目的は、米国での電気自動車(EV)向け電池の需要拡大に対応するために現地での生産体制を整えることです。
DNPは現在、日本で製造されたパウチを米国に輸出していますが、新工場では日本で製造されたロール状の包装材を持ち込み、顧客の要求に合わせて切断する作業を行う予定です。
デビッドソン郡はDNPを誘致するため、12年間の雇用開発投資助成金を承認しました。州の予測によれば、DNPによる進出は州経済を6億9,100万ドル成長させ、助成金は12年間で最大274万ドル(約4億円)を支援する予定です。
ヘッジファンドがDNPの株式を取得
ヘッジファンドのエリオット・マネジメント・コープが、大日本印刷株式会社(DNP)の株式を取得しました。エリオット氏は、DNPの上位3株主の1人となりました。DNPは日本の自動車用バッテリー部品サプライヤーであり、時価総額は8,290億円(63億6,000万ドル)です。現在、エリオット氏はDNPの株式の約5%、3億ドル相当を保有しています。
DNPに続いて、昭和電工もバッテリーパウチフィルムでの強みがあります。バッテリーパウチフィルムはバッテリーの外側を包む重要な部品ですが、DNPと昭和電工は世界のバッテリーパウチフィルム市場で70%のシェアを保有しています。
日本以外のメーカーの台頭
日本以外のメーカーも競争力を持ち始めています。韓国の電池業界によると、BTLアドバンストマテリアルが最近、日本のアルミパウチフィルムと同等の性能を持つアルミパウチフィルムの開発に成功したと報じられています。また、LG化学は高品質で安価なパウチを使用するため、日本以外のパウチフィルムのテストを行っています。LG化学は韓国企業と協力して、パウチフィルムのローカライズを進める予定です。
さらに、中国も国内でのアルミパウチフィルムの生産を推進しています。セレン科学技術は2016年に日本のパウチメーカーTOPPANを買収し、アルミパウチフィルム市場に参入しました。また、セレン科学技術は中国の電池メーカー「ファラシス」と提携し、日本への事業依存度を低減する取り組みを行っています。
まとめ
DNPは、リチウムイオン電池パウチやOLEDディスプレイなどの製造において成功を収め、バッテリーパウチ市場で独占的な地位を築いています。今後、DNPは米国に新工場を建設し、リチウムイオン電池の包装材の生産を開始する予定で、需要の増加に対応し、競争力を維持していくことが期待されています。
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