出光興産が全固体電池関連で注目される理由

全固体電池

出光興産が、全固体電池関連として注目されています。その主要因は、同社の開発・生産する硫化物型の固体電解質にあります。

出光興産の固体電解質について、技術的目線から解説をします。

出光興産は全固体電池用の電解質を生産する

石油元売り大手の出光興産は、次世代の電池である全固体電池に使用する「固体電解質」を量産しています。

出光興産が作っている固体電解質は、硫化リチウムという材料を使用。石油製品の副次的に生成される硫黄成分を流用しており、1994年頃から、硫化リチウムを使った電解質の開発を進めていたようです。当初はEVを想定していなかったが、2001年ごろに電気自動車用途に絞って研究開発を行っているとのことです。

出光の固体電解質は、当面はトヨタへの供給をメインにしていますが、将来的には電解質材料の外販も検討しているとのことです。この外販により、他の自動車メーカーや電池メーカーにも出光の固体電解質が提供され、次世代電池技術の普及に貢献する可能性があります。

注目される理由は「やわらかい」固体電解質

出光の固体電解質は、非常に柔らかく粘り強い性質を持つことができます。これは非常に重要な特性であり、変形抑制技術に革命をもたらす可能性があります。

従来の固体電解質は比較的硬く、変形に対して脆弱でした。電池電極が充放電により膨張収縮すると、その力が電解質にかかり、電極と電解質で「割れ」が生じます。

出光の柔軟性の高い固体電解質は、膨張収縮による応力を吸収し、全固体電池の安定した稼働と長寿命を実現しているものとされています。

トヨタ自動車との協業

トヨタと出光は、全固体電池の電解質において、多くの特許を握っている

トヨタ自動車と出光興産が協力して、全固体電池の開発を進めることを発表しました。トヨタ自動車は、既に全固体電池の開発を進めていて、2027年から2028年ごろに実用化し、車に搭載する予定です。

最近のトヨタの発言によれば「ラボベースでの全固体電池の開発に関する材料の選定と開発においてはほぼ目処がついており、残る課題は製造方法に関するものである」という発言が目立ちます。製造方法を適切に確立できるかどうかが焦点とされているようです。

この協力の背後には、トヨタが全固体電池の開発をより迅速に進展させたいという願望があります。電池材料は、なるべく同じ粒径の粉を大量に使用するのが理想です。そのためには、材料供給の工程を管理する必要があり、サプライヤーの領域に足を踏み込む必要があります。トヨタは、出光からの固体電解質の製造に協力することで、安定した品質の材料を入手したいという思惑があるのです。

出光とトヨタの関係は2013年ごろから継続されている

トヨタ自動車は、出光興産の固体電解質を活用して全固体電池を開発する予定です。

固体電解質材料は、粒子を均一に並べて作り、密着性が高く、柔らかさも保つ必要があります。また、水に強い材料を使うことも重要です。材料の特性だけでなく、その製造技術も競争力の源泉になっています。

出光興産の固体電解質は、耐水性(水に強い)、イオン電動性(高い電気伝導性)、柔らかさ(形状変化に追従できる)の3つの特徴を持つとされます。特に耐水性は重要で、出光の材料は硫化水素発生に対策ができる材料設計がされています。

トヨタはこの「柔らかい」電解質材料を製造できるのが出光の強みだとして、協業を発表、タスクフォースを組んで全固体電池の量産化に向けて取り組みを進めています。

量産時のスケールイメージ

2027-28年の立ち上がりの段階では、出光の固体電解質の供給量は「そこまで多いものではない」とされており、2027年の断面では、全固体電池は非常に限られた車種・グレードで搭載されるのではないかと考えられます。

時期固体電解質
量産規模
車両台数換算
実用化初期2027年当初100トン/年~1,000台~
量産段階2030年ごろ?1,000トン/年~10,000台~

出光は、固体電解質を2027年時点で年間数百トン規模で生産するとしており(車両にすると年間数千台と考えられる)、量産は数千トン(車両にすると数万台)レベルになると考えられます。

年数千台というと、高級車レクサスLCの年間販売台数に近い数字です。全固体電池がこの程度の販売台数に留まるのであれば、最初の搭載は大衆車ではなくフラッグシップに近い車種に搭載されるのではないかと想像できます。

トヨタの全固体電池の性能

電池種類ラインオフEV距離コスト急速充電
現行bZ4X搭載電池2022615km-30min
次世代電池パフォーマンス版20261230km20%減-20min
普及版2026-27738km40%減-30min
さらなる進化ハイパフォーマンス版2027-281353km28%減-20min
トヨタ自動車発表内容をもとに当サイト作成

トヨタと出光の会見の質疑では、2028年に実用化する全固体電池のエネルギー密度についても言及されました。2026年に投入する次世代電池のパフォーマンス版をベースにして、全固体電池はエネルギー密度20%アップを考えているとの発言があります。

これ以上の情報は得られておらず、最も重要なエネルギー密度の値はいまだにベールに包まれています。

全固体電池のエネルギー密度は?

トヨタの全固体電池のエネルギー密度について、公式に数値表現は発表されていません。「26年に投入する次世代電池(液系)のエネルギー密度から20%アップ」という表現にとどめています。

テスラの最新の液系リチウムイオン電池の円筒セルのエネルギー密度は280-300[Wh/kg]です。26年にはトヨタもこのレベルの液系電池を投入すると仮定し、この20%増しと考えると、27-28年に投入される全固体電池は336-360 [Wh/kg] と考えられます。

NEDOは全固体電池のエネルギー密度の目標を500Wh/kgに置いており、336-360[Wh/kg]はNEDO目標には届かない値です。2027-28年の目線では、劇的なエネルギー密度の改善は期待しないほうがよさそうです。

出光とトヨタの共同会見では、全固体電池は「究極的にはさらなる性能向上をやるポテンシャルもある」とも発言しており、2027-28年での性能からの改良も進められると想像できます。

全固体電池の実用化で訪れる変化

現在の電気自動車は、空力面での損失を抑えるために「ぬめっとした」デザインが多い

全固体電池が実現されると、車にいくつかの大きな変化が訪れると言われています。

電気自動車の損失の大部分を占める空力に自由度が生まれ、より自由なデザインが可能になります。また、バッテリーの自由な配置が可能になり、低重心でキャビンスペースを確保できる車が増えることも期待されています。

さらに、充放電のスピードが速くなることで、充電時間に対する需要の高い商用車にも応えることができるようになります。従来のバッテリーでは使えなかった商用車の領域でも、新しい可能性が広がると言われています。

もちろん、電池自体だけで車の価値が決まるわけではありません。最終的には、この新しい技術を活かして、車自体の魅力を高める努力を続ける必要があることを、トヨタ自動車も公言しています。

出光はリチウム資源も手の内に収めたい

出光は、オーストラリアでリチウム鉱山への投資を進めています。そのリチウムを使って、固体電解質を作りたいと考えていますが、実現は難しいようです。

出光はオーストラリアでは石炭鉱山の経営もしており、そこで得た経験や地元の信頼関係、技術を活かして、リチウムの取り扱いを行いたいと考えています。一方で、全固体電池に自社のリチウムを利用するかは明言していません。(他の会社から調達したものを利用することが多いようです。)

まとめ

出光興産が全固体電池向けの固体電解質の量産を目指しトヨタと協業することで、非常に注目を集めています。彼らの材料は耐水性、イオン伝導性、柔軟性を実現する特長を持っており、全固体電池の競争力を高めることができます。トヨタとの協力関係も強化され、両社が革新的な全固体電池の開発に取り組んでいくことが期待されます。

全固体電池の実現により、車の航続距離の延長やデザインの自由度の向上など、革新的な変化がもたらされることでしょう。

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