EVに搭載されているLiイオンバッテリー(LIB)の代替・革新型電池として期待される「全固体電池」。
LIBの電解質を固体にし、安全性を増し、高容量化が可能になると期待されています。
日本国内でも全固体電池開発の開発は活発であるが、どの企業が最も先行しているのでしょうか?
今回は、特許出願件数からその動向を予想しました。
特許出願件数から見る全固体電池の開発動向(2024年1月)
上グラフは、「全固体電池」に関する国内特許の出願数です。
先頭を走るトヨタ自動車の全固体電池は?
トヨタ自動車の全固体電池に関する研究進捗は、発表されている限りでは以下の通りです。
トヨタ自動車は「東京オリンピック、パラリンピックが開かれる2020年、全固体電池を搭載したモビリティをお見せできるように、鋭意開発を進めている」と公表。2021年9月に、全固体電池を搭載した車両のナンバーを世界で初めて取得したと発表しています。
2021年に公開されたモビリティは、あくまでコンセプトのようなもので、我々の乗る一般乗用車に全固体電池が搭載されるのは2025年以降という見方が有力です。
全固体電池の採用は、はじめは液体電解質のリチウムイオン電池(LIB)と、全固体電池がどちらも積まれた状態で搭載が始まるとされています。
本格的に実用化されるのは2025年以降だろう、と筆者は考えています。
トヨタも、最初から全固体電池で主導権を握っていたわけではありません。
2011年時点での特許権利者スコアで見ると、トヨタ自動車は3番手でした。しかし、2011-2016年の間に特許出願件数で他社を圧倒し、現在の地位に登り詰めています。ここからも、トヨタの全固体電池に対する本気度が伝わってきます。
2023年には、トヨタはEV用電池の開発の方向性を示し、3つの液系電池と共に全固体電池についても発表しています。この中で、2027-28年に80%充電を10分以下で実現する全固体電池を開発中であると発表しています。
トヨタが先行する中で、トヨタ以外のメーカーに勝機はないのでしょうか?
トヨタ以外のメーカーの勝機
全固体電池に関する特許について、トヨタを除いた場合の順位を見てみると、
これらのメーカーのうち、村田製作所は型式の違う全固体電池を開発しています。
硫化物型、酸化物型の主な違いは以下の通りです。
電解質種類 | 硫化物型 | 酸化物型 |
---|---|---|
用途 | 車載・産業機器 | 産業機器 |
実用化目途 | 2025年以降 | 2030年以降 |
可燃性 | 高い | 低い |
安全性 | 硫化水素発生の懸念 | 安全性高い |
トヨタを除くメーカーでは、村田製作所が頭一つ抜けていますが、その特許出願スピードには減速感が感じられます。
ただ、2019年の見本市CEATECでは大容量(25mAh)の全固体電池を発表しており、開発は継続中。単純に特許戦略が変わり出願数が減ったのか、実は開発が難航しているのか、懐の内は読み解けません。
注目すべき企業は他にもあります。
FDKは、ここ数年で特許数を着実に伸ばしています。
FDKは2018年12月に小型全固体電池(140μAh)のサンプル出荷を開始しており、製造方法に関する特許を着実に出願しています。全固体電池の目下の課題は「いかにして量産するか」であるため、技術開発の方向性も正しく、今後も伸びが期待できます。
企業ごと特許出願数と生き残り戦略
各型式を開発しているメーカーは、下記の通りで、それぞれの特許出願件数は上のグラフの通りです。
■硫化物
トヨタ自動車
出光興産
日立造船
住友電気工業
ホンダ
日立
日産
■酸化物
村田製作所
FDK
太陽誘電
オハラ
パナソニック
ナミックス
日本電気硝子
日本特殊陶業
豊島製作所
TDK
各社、異なる形式の全固体電池の開発を進めています。
ここからは、トヨタ自動車以外のメーカーの生き残り戦略を考察していきます。
各社の全固体電池生き残り戦略
トヨタ一強のなかで、その他のメーカーはどのように生き残りを図るのでしょうか。生き残りのポイントは以下の通りです。
形式で差別化する
全固体電池は、形式(材料の違い)で
・硫化物型
・酸化物型
に分類できます。
形式でトヨタと差別化するには、酸化物型の全固体電池の開発が必要です。酸化物型は、硫化物と異なり硫黄を用いないため、より安全性が高いと言われています。
安全性の面で差別化できるのであれば、特許数で二番手につけている村田製作所にもチャンスがあると言えます。
用途で差別化する
また、全固体電池は用途ごとに
・車載向け
・産業機械向け(IoTやウェアラブル通信端末)
に分けられます。
トヨタ自動車と異なる形式の「酸化物」を扱う各メーカーは、トヨタとは異なる土俵で戦える可能性があります。
各社の全固体電池形式と用途を区別すると、以下のようになります。
硫化物型 | 酸化物型 | |
---|---|---|
車載 (EV向け) | トヨタ自動車 ホンダ 日産 (激戦区) | |
IoT機器等 産業機械向け | 出光興産 日立 日立造船 住友電気工業 | 村田製作所 FDK 太陽誘電 オハラ パナソニック ナミックス 日本電気硝子 日本特殊陶業 豊島製作所 TDK |
トヨタ自動車を含む車載向け硫化物型全固体電池の領域には、国内では大手自動車三社が挑戦しています。
村田製作所は車載向け全固体電池の開発は報告しておらず、大容量電池の開発にも積極的でないようです。
ここからも、全固体電池市場に関して、車載向けはトヨタ一強、産業機械向けには村田に勝機があるように見えます。
筆者が気になる個別企業
研究者の目線から、
全固体電池関連で気になる企業を紹介します。
筆者が特に着目しているのは、以下の企業群です。
パナソニックとFDKは、ここ数年の特許数増が著しいため、動向が気になる企業です。
パナソニックは、2020年4月に電池に関する新会社を設立(トヨタと共同)、トヨタ流の特許出願(マンパワーでガンガン出願する)方式に変わってきていると推測できます。
また、2016年頃にはプレゼンスがほぼ皆無だった企業が、この2年で全固体電池関連の特許数を一気に増やしています。LG化学と、三菱重工で、これらの企業も注目に値します。
LGケムリミテッドの全固体電池関連特許
固体電解質を含む全固体電池用の電極 公開:令和2年3月12日(2020.3.12)
上記が、LGが日本で出願した全固体電池電極に関する特許の一例です。活物質とコーティングされた固体電解質に、カーボンファイバーやCNTなど線状の導電材を含む電極の構造の特許を取得しています。
かなり具体的な特許で、実際の開発に直結しているものと考えられます(トヨタがこの特許に近いものを出しているのでは、とも思いますが)。
全固体電池は日本が研究をリードしていると認識してますが、中国・韓国含めた海外の動向も注視する必要がありそうです。
三菱重工の全固体電池関連特許
三菱重工は、全固体電池システムにおいて、一部の電池パックで破損や剥離(導通切れ)が起こっても、全体として導電が可能になるような内容の特許を取得しています。三菱重工の特許は、電池パックやシステムに関する特許が多い傾向です。
電池は調達して、自社製品(宇宙関連?)に搭載するために研究開発を行っているものと考えます。全固体電池のユーザ側の特許であり、電池そのものを開発しているわけではなさそうです。
全固体電池の実用化の目途
トヨタ自動車は2020年代後半に車載電池としての市場投入を宣言しており、日産自動車も2028年に全固体電池を搭載した車両の投入を予告している。
2020年代後半は、早ければ2023年の現在からみても2年後で、もう目前に迫っています。
EVなどの車載のみでなく、小型のIoT機器向けの全固体電池の量産も始まりつつあり、今後、より開発は加速していくものと考えられます。
今後も動向を注視したいところです。
全固体電池に関して、より最新の動向を学びたい場合、モビリティ用電池の化学:リチウムイオン二次電池から燃料電池までという書籍で最新の電池関連トレンドを掴めます。
こちらは「論文集」に近いもので、少々高価ですが、執筆陣が電池業界の大物ばかりで、とても勉強になります。大学の先生方も有名どころばかりですが、産業界からも、トヨタ、ホンダ、日産の大物が勢ぞろいしています。英語で書かれていても読みたくなるような内容が、日本人による日本語で書かれていて、この本が生み出される日本に生まれてよかったと思えるほどです。
全固体電池や次世代車載電池については、Motor Fan illustrated Vol.178にも特集されています。
こちらは、Kindle unlimited版は無料で読めます。
関連記事
コメント
世界的にはどうなんでしょう?
コメントありがとうございます。
論文数だけで比較すると、中国>米国>日本の順です。
実用化に向けた産業界での取り組みは日本が先行していますが、リチウムイオン電池と同じように実用化後に米中に撮り残される懸念があります。
ご参考までに、関連記事に「全固体電池の研究、論文数で明らかにする各国の力関係」を追加しました。