マクセルの全固体電池の性能を考察する

技術系読みもの

マクセルは全固体電池を開発する企業の一つです。産業機器用に全固体電池を開発しており、EVなどの車載向けではありませんが、円筒型の全固体電池など、ユニークな技術を開発しています。

この記事では、マクセルの全固体電池について紹介します。

円筒型の全固体電池を開発

円筒型全固体電池(マクセルプレスリリースより)

マクセルは、2012年に大容量の円筒形全固体電池の開発を発表。従来の硫化物系固体電解質を使用したセラミックパッケージ型全固体電池の容量の25倍(200mAh)を実現しました。

円筒形全固体電池のサンプル出荷は2024年1月下旬を予定しています。

マクセルの円筒形全固体電池は、高密閉な外装体が新機開発され、全固体電池のエネルギー容量を高められるように改良されています。従来マクセルが開発していた立方体の外装が円筒形に変更されましたが、立方体の全固体電池と同等の密閉性を実現しています。

車載として使えるか?

マクセルの円筒電池は産業機械用を想定して設計されており、テスラなどの車載用に比べて小型

マクセルの開発した全固体電池が、すぐに車載用として用いられることはなさそうです。(そもそもマクセルも車載用としては開発していない)

その理由は、エネルギー密度の低さと、電池サイズがあまりにも小さいためです。

テスラの円筒電池と比較

テスラ内製マクセル
用途車載産業用機器
エネルギー密度約 800 Wh/L41.63 Wh/L
サイズ46mm×80mm22.7mm×27.3mm
電池容量26,000mAh200mAh
電池容量は、円筒電池1本あたりに蓄えられるエネルギー量の目安

電池容量は200mAhと、従来の車載用電池と比べると非常に小型です。テスラが搭載している4680型(直径46mm、長さ80mm)の電池は、電池容量が26Ah(26,000mAh)と、非常に高容量です。少なくとも、この電池がこのままのサイズで車載用として利用されることはなさそうです。

一方で、テスラのように円筒電池を用いるメーカーとしては、パウチではなく円筒で全固体電池セルを製造してくれるメーカーは貴重です。今後、4680型のような大型の円筒電池が製造できるようになれば、マクセルにも車載に向けて弾みがつくものと考えられます。

正極・負極の情報はない

マクセルの全固体電池は、硫化物系固体電解質を用いていることは知られていますが、正極・負極に用いられる材料系については情報が出ていません。

エネルギー密度が高くないことから、正極・負極には液系のリチウムイオン電池でよく用いられる材料(正極はNMC、負極は黒鉛?)が採用されている可能性があります。この電池が市場評価されるようになれば、材料関係の情報も出回る可能性もあります。

充放電特性からは多くは分からない

マクセルは、円筒型全固体電池の充放電特性を公開しています。ただ、実際のアプリケーションにおける性能は、使用される環境条件や負荷にも大きく依存するため、このグラフだけからは完全な評価はできません

このグラフから分かることは、放電開始時の電圧は約2.5Vで比較的高い開始電圧である(フル充電状態で電力を多く必要とするデバイスに多くのエネルギーを提供できる)こと、カーブが滑らかであ安定した電力供給が可能な電池であること、200mAhの容量まで1.5V以上の電圧を維持できており、電池の効率が高いことなどです。

プレスリリースに出すような性能曲線はチャンピオンデータ(持っている中で可能な限り良いデータ)であることが多いため、今後量産や耐久性の評価などが進み、マクセルはよりリアルな性能情報を得ていくものと考えられます。

気になるのは重量

マクセルは、円筒型全固体電池の重量を公表していません。車載電池ではセルの重量は重要な指標ですが、産業機器用としているため公表していなくても不思議ではありません。

比較的「重い」電池なのではないかと考えられます。円筒型外装で全固体電池を開発するには、電池の膨張収縮を押さえつけるための強度が必要なため、外装の重量も重くなります。円筒型の電池セルで重量が軽いものを開発できれば、軽量な全固体電池として車載用も目指せると考えられます。

円筒型の全固体電池は何が凄いのか

引用元:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/inf2.12000#

円筒型で全固体電池を製造することは難しいとされます。理由は、円筒形状でセルの膨張収縮を制御するには高い技術力が求められるためです。

全固体電池などの多くの次世代電池では、充放電の際にセルが膨張するという問題があります。膨張による変形が繰り返されると、サイクル性能が低下し電池の劣化につながります。

全固体電池の多くはパウチ形を用いる

膨張収縮を抑制するために、外部からの圧力を加えて膨張収縮を抑制する対策がなされます。加圧は平面の方が容易であるため、全固体電池の奥はコイン型や角形、パウチ型などの平板が用いられます。円筒型は寸法や圧力制御が難しいため、全固体電池ではあまり用いられていませんでしたが、マクセルは円筒での全固体電池を実現しています。

競合の中では円筒で膨張収縮を制御するメーカーもいます。

リチウムイオン電池のメーカーであるエンパワー社は、リチウム金属電池をパウチではなく円筒型で開発、パイロットテストをしています。

コイン型、角形も開発

マクセルは、同じ全固体電池を角形やコイン型でも開発しています。

(電池セルの形状の種類については、以下の記事で解説しています。)

セラミックパッケージ型全固体電池

マクセルはセラミックパッケージ型全固体電池を開発し、耐熱性と高密閉性を備えています。この電池では、セラミックパッケージを使用しており、基板への実装はリフローはんだを用いて可能です。商品名はPSB401010Hで、標準容量は8.0mAhです。さらに、容量が16mAhの「PSB401515H」も開発されています。

コイン形全固体電池

マクセルはアルジロダイト硫化物系電解質を使用したコイン形全固体電池の開発も行っており、2021年11月からサンプル出荷を始めました。

この電池は容量が8mAhで直径は9mmです。この電池は優れた出力特性、高温での動作可能性、耐熱性を特長としており、-60°Cから125°Cの広い範囲で使用できます。

用途は主に産業機器用

マクセルの全固体電池は、産業機器に主に使用されています。この電池は、バックアップFA機器、車載機器、環境センサー、そしてインフラなどの産業分野で利用されています。また、民生用途としては、ウェアラブル機器、補聴器、そしてヘルスケア機器などにも使用されています。さらに、将来的には車載にも適用できる可能性があり、幅広い領域での利用が期待されています。

まとめ

マクセルの全固体電池は耐熱性と高密閉性を備え、産業機器や民生用機器で利用されます。さらに、将来的には車載機器でも使用されることが期待されています。マクセルの独自技術と生産体制により、全固体電池はますます注目を浴びるでしょう。

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