近年、電気自動車(EV)の需要が急増し、バッテリー技術の進歩が極めて重要となっています。
その中で注目されるのが、スウェーデンの新興電池メーカーであるNorthvolt(ノースボルト)です。NorthvoltはEUにおける国産バッテリーの有力企業として評判を高めています。
本記事では、Northvoltの企業概要、経緯、製品ラインナップ、そして注目すべき協業について詳しく紹介します。
Northvoltってどんな会社?
Northvoltは、スウェーデンのヴェステロース市に本拠を置く研究開発センターを持つ新興電池メーカーです。EU圏内でバッテリーを生産する有力企業として、とくに欧州のメーカーからの評判を急速に高めています。
元テスラのサプライチェーン責任者が創業
- 2015SGFエナジーとして設立
- 2017社名をノースボルトに変更
- 2021スウェーデンのスケレフテオにバッテリー工場の建設を開始
Northvoltの起源は、2015年に設立されたSGFエナジーという会社に遡ります。
ノースボルトを設立したピーター・カールソンCEOは、米EVメーカーのテスラでCPOおよびサプライチェーン責任者を務めた人物です。
テスラに入社する前は、 NXP (旧フィリップス セミコンダクターズ) やソニー エリクソンなど、いくつかの著名な企業で最高製品責任者を務めていたという経歴の持ち主で、2015 年末にこれらの職を辞し、起業家、アドバイザー、エンジェル投資家に転身。2015年にSGFエナジーを設立、2017年に社名をノースボルトに変更しました。
バッテリー生産をカーボンニュートラル電力で
ノースボルトは、バッテリーセルの生産に必要なエネルギーをスウェーデン北部の地域で発電される風力発電と水力発電からのみ得ることを目指しており、完全なカーボンニュートラルバッテリーの生産に向けて工場の建設を進めています。
ノースボルトは2021年、スウェーデンのスケレフテオに電気自動車用バッテリーの生産工場の建設を開始しました。
また、ボルボ・カーズと共同で、スウェーデンのヨーテボリ(ボルボの自動車工場の近く)で電池セル工場を建設しています。この工場は年間最大50GWhの生産能力が見込まれており、2026年に稼働を計画しています。
ノースボルトが急成長する背景には、急速に進むEV化に伴って欧州では電池を中国やアジアの企業からではなく、欧州の企業から調達したいという思惑があります。中国のCATLや韓国のLGに対するヨーロッパの電池企業として、ノースボルトが台頭してきたというわけです。
市場シェアは世界TOP10にも入らない
欧州で急速に成長しているノースボルトですが、その電池生産量は決して多くありません。2022年の世界での車載電池シェアのランキングではTOP10にも入っていません。電池事業は規模がモノを言う世界で、大資本投入による大量生産こそが正義です。ノースボルトの事業の拡大はまだこれからですが、欧州自動車メーカーの資本と欧州の保護主義を背景に、ノースボルトの供給量は今後成長していくことが予想されます。
車載用電池:Voltblock
Northvoltの車載用電池パックとして、Voltblockが販売されています。
Voltblockは、円筒形・角柱形のセルで構築されたラックやパック用のモジュール式ビルディングブロックです。主に車載や産業用途向けの高密度バッテリーモジュールとして提供されています。
製品名 | Voltblock C 12/90 |
---|---|
容量 | 11.7 kWh |
定格電圧 | 72V-100V(88V) |
冷却方式 | 液冷式 |
防水性 | IP20 |
寸法(長さx幅x高さ) | 800x483x90 mm |
重量 | 54 kg |
車載用の電池パックの諸元表は上記の通りです。バッテリーとしての諸元はアジアの企業と大きく変わらず、スペック上は自動車メーカーのニーズを満たせそうです。
Voltpacks
ノースボルトが展開する商品のもう一つに、Voltpacksがあります。Voltpacksはノースボルトが設計したバッテリーシステムのカスタムソリューションであり、陸上、海上、空中のエネルギー貯蔵ニーズに対応しています。
用途としては、自動車、頑丈なLCV(Light Commercial Vehicle:商用車)、強力なトラック、現代の公共交通機関など、様々な輸送手段に適したバッテリーセルを供給しています。
注目すべき協業
ノースボルトはBMWグループ、フォルクスワーゲン・グループ、ゴールドマン・サックス、フォルクザムなどの企業からの出資を受けています。
以下では、主に自動車OEMの協業をまとめます。
フォルクスワーゲンとの協業
ノースボルトの協業先としてまず注目すべきなのはフォルクスワーゲンです。
2019年、フォルクスワーゲンとノースヴォルトが協力して、ドイツのSalzgitter(ザルツギッター)に第2工場を建設することを発表しました。この工場は2023年から2024年の間に生産を開始する予定です。
一方で、2022年秋ノースヴォルトはエネルギー価格の高騰により、ザルツギッターで計画しているバッテリー工場の建設が遅れる可能性があると報告しています。
BMWとの協業
BMWもまた、ノースボルトとの関係を強化しています。
BMWは20億ユーロの契約を締結。スウェーデン北部のスケレフテオに建設中のノースボルトのギガファクトリーで生産したバッテリーを、2024年からBMWに納入、2025年から自動車に搭載される予定です。
BMWは欧州のバッテリーメーカーであるUmicore N.V.(ベルギー、ブリュッセル)とも協業しており、電池の欧州での調達を進めています。
ボルボとの協業
ボルボとノースボルトは、ジョイントベンチャー(合弁会社)を設立し、大規模な電池工場の建設を計画しています。工場は2023年から建設が始まり、2025年から稼働を開始する予定です。
ボルボは、2030年までに完全な電気自動車メーカーになることを目指しています。ボルボとノースボルトの合弁会社の工場が生産するバッテリーの年間生産能力は最大50GWhで、約50万台の電気自動車(EV)に電池を供給する見込みです。合弁会社で開発された電池セルは、次期「XC60」に初めて搭載される予定です。
ボルボは特に寒冷地でのバッテリー性能の開発に注力したいようです。よく知られるように、低温でリチウムイオン電池の性能は低下します。ボルボはノースボルトと合弁会社を設立することで、この寒冷地で高い性能を発揮するバッテリーを設計したい模様。社内に研究開発拠点を持つノースボルトは最適な選択肢であったようです。
バッテリー調達は今後、現地化が進む
ここ数年、中国とアジアがEV用電池セルの製造市場を支配してきましたが、今後はリチウムイオン電池製造の現地化が進行するとみられています。たとえば、欧州はこれまで中国のバッテリーメーカーから電池を調達してきましたが、今後は欧州地場企業のバッテリーを主に採用していく意向です。
背景には、各国が車載用電池の安定的な供給を確保し、輸入への依存が減少させ、雇用創出や地域経済の支援につなげたいという思惑があります。
伴って、欧州と米国では2027年までに製造能力が大幅に拡大する見込みです。欧州の製造能力は2021年の約11%から2027年には22%に拡大し、米国の製造能力は2021年の約7%から18%に拡大するとされています。
このようなトレンドの中で、ノースボルトのバッテリーは特に欧州市場で需要が拡大していくものと考えられ、今後の成長が期待できます。
バッテリー新興の難しさ
バッテリー新興企業には、Northvolt社をはじめ、Freyr社、iM3NY社、Verkor社、InoBat社、Phi4Tech社、Italvolt社など無数に存在します。バッテリーは大規模生産に向けた設備投資が膨大で、ノースボルトのように大手メーカーからの投資・資金調達を得て成長することが必要です。
資金難に陥ると、2023年に電池新興のブリティッシュボルト(Britishvolt)が破綻したように、容易にプロジェクトが終了する危険もあり、経営の難しさが見てとれます。
まとめ
Northvoltは、スウェーデンのヴェステロース市に本拠を置く新興電池メーカーであり、EUにおける国産バッテリーの有力企業として急速に評判を高めています。
同社はNorthvolt VoltblockやVoltpacksなどの製品を提供し、フォルクスワーゲンやBMW、ボルボなどとの協業も積極的に進めています。これらの取り組みにより、Northvoltは電気自動車市場における重要な存在となりつつあります。今後の展開に注目です。
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