全固体電池のプレイヤーは多いですが、投資体力のある大企業が特許の多くを握っており、トヨタ自動車がグローバルで先行しています。
一方で、自動車OEMなどの出資を受けて全固体電池の開発を担うベンチャー企業も多く存在し、その規模は既にベンチャーと呼ぶべきものではない企業まで存在します。
この記事では、今後注目すべき全固体電池のプレイヤーをまとめました。
全固体電池ベンチャー一覧
全固体電池のベンチャーは、挙げるときりがありませんが、以下のような企業群が注目されています。
- QuantumScape
- SolidPower
- SolidEnergy Systems
- Seeo
- Blue Solutions
- ProLogium
- WeLion
- Qingtao Energy Development
- STEMicroelectronics
- llika
大手企業に関するリストは、以下の記事でも紹介しています。
今回は、注目すべき企業として、QuantumScape、SolidPower、SolidEnergy Systemsを紹介します。
QuantumScape
全固体電池関連のベンチャーとして最も有名なのがQuantumScapeです。
スタンフォード大学のスピンアウトであるQuantumScapeは、全固体電池の開発と、全固体電池技術を自動車産業向けに商業化するための製造工程を開発しています。カリフォルニア州のサンノゼに本社を構え、従業員数約は200人です。
2015年にフォルクスワーゲン(VW)が5%の株式を取得し、2020年には2億ドルを追加出資、約13%の株式を保有しています。
さらに、VWとQuantumScapeは共同で2018年に合弁会社を設立しており、実用化に向けた試験プラントを設置する計画を立ています。大規模製造設備を備えた量産体制を構築するには投資体力が必要となるため、QuantumScapeよりもVWが主導権を握って量産することになると考えられます。
一方で、技術的進歩が公表されておらず、技術レベルを過大評価されているとも噂されます。全固体電池のプロトタイプを公表していない、サードパーティでの評価に消極的な姿勢を示す、などが原因です。
同様に、QuantumScapeの株価は、米国市場で過大評価されているとも言われています。2020年12月にNYSEに上場した際にフォードとGMの時価評価を上回り話題となったものの、その後落ち着きを見せています。現時点での株価を過小評価だとする投資家も多い模様で、全固体電池の実用化が近づくにつれて株価が上向くのではないか、と期待する声も聴かれます。
SolidPower(ソリッドパワー)
QuantumScapeに次いで有名なのがSolidPower社です。
Ford、Samsung、Hyundaiが出資、BMWと提携しています。2020年12月に22セルのバッテリーを発表。同時にEV用電池のマイルストーンを発表しています。
2021年末までに20Ahの全固体電池セルの製造を開始し、2022年には100Ahを開発するとしています。
SolidPowerでは独自の硫化物型固体電解質を使用し、アノードに高含有シリコンとリチウム金属、カソードにチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)を用います。液系のリチウムイオン電池の設備を流用できるようにプロセスを設計しているとのことですが、どの程度流用できるかは疑問が残ります。
2021年中に米ナスダック取引所に上場、その後株価は下落しています。上場がピークとなるのはよくある話ですが、SolidPowerも例外ではありませんでした。
2021年時点でBMWの幹部は「SolidPower社が技術を完全に確立するのは4,5年先(2025-26年?)」との見方を示しており、SolidPowerの全固体電池が本格的に市場投入されるのは2025年以降となりそうです。
2023年のCESで、Solid Powerと、出資する韓国のSK innovation(現在のSK On)は、シリコンアノードと高ニッケルカソードを備えたSolid Powerの硫化物ベースの全固体電池の初期プロトタイプを展示。
Solid Powerは開発した電池の生産について、SKと協業することで実現しようとしているとも伝えられています。
Solid Power は、シリコン アノードベースの負極で重量エネルギー密度 390 Wh/kg、シリコン負極の代わりにリチウム金属陽極を利用して 440 Wh/kg のエネルギー密度の実現を目指しています。
SolidEnergy Systems(SES)
SESは、2012年にMITからスピンオフしたスタートアップで、GMがlithium-metal EV battery向けに1億3900万ドルを投資しています。GMテクニカルセンターで走行試験も実施、2023年までに米ボストン近郊のウォーバーンにセルのプロトタイプの生産ラインをつくり、2025年に商業化することを目指しています。
ヒュンダイもSESに1億ドルを出資しており、2030年には全固体電池を搭載したEVの生産を計画しています。同様にFordやBMWも技術サポートをしていると伝えられています。
米国以外で気になる全固体電池ベンチャー
米国に限らず、今後躍進が期待できる全固体電池事業者を紹介します。
Blue Solutions
Blue Solutionsは、フランスのボレログループの子会社であり、「全固体電池製造の最古参」とも言われています。近年では鴻海がBlue Solutionsとの協業を発表、全固体電池を2026-28年に、電動バイク向けに製造するとしています。
Blue SolutionsのLMPセルは、固体ポリマー電解質と金属リチウム負極を使用し、液体電解質を必要としない高い安全性を持ち、世界中で広く導入されています。一方でエネルギー密度が低く、課題は山積しています。
今後、LMP電池セルの「GEN4」技術の導入により、エネルギー密度の向上と急速充電の可能性が期待されています。鴻海との協業により、電動バイク向けの全固体電池システムの開発も進めるとされており、今後躍進の可能性も見いだせます。他の電池大手と比べると規模は大きくありませんが、今後も技術革新に注目していきたい企業です。
WeLion
Beijing WeLion New Energy Technology(WeLion)は、中国に拠点を置く先進的な電池技術企業です。2025年までに新規株式公開(IPO)を開始する計画を明らかにしています。
WeLionは360Wh/kgという非常に高いエネルギー密度を実現する電池を2022年末から生産開始しています。この電池が中国製EVに搭載され、航続距離が改善されていくと、EVの商品性がより高まるものと考えられます。
WeLionは、中国の新興自動車メーカーであるNIOとのパートナーシップを主軸に全固体電池を開発していますが、契約は独占的なものではありません。WeLion湖州工場のゼネラルマネジャー、Tian Qiyou氏によると、WeLionは「今後の量産が計画通り着実に進む」ようにと、主要な国際自動車メーカーとの協力も模索しているとされています。ただし、具体的な自動車メーカー名は明らかにされていません。
プロロジウムテクノロジー
ProLogium Technology Co., Ltd.(輝能科技)は、台湾の全固体電池メーカーです。当社は現在、”次世代電池ベンチャー”として位置づけられており、2019年時点での従業員数は438名でした。2006年に設立されたプロロジウム社は、最初は家電メーカーに電池を供給することから事業をスタートしました。その後、電気自動車メーカーにも電池供給を拡大しました。特に、酸化物系固体電池の技術に力を入れており、約500件の特許技術を出願しています。
開発済みの固体電池の重量エネルギー密度の公称値は213Wh/kg。開発済みの固体電池の重量エネルギー密度の公称値は213Wh/kgと、決して高い数値ではありません。
まとめ
電池開発は、量産につなげるためには長期的な投資体力が必要となるため、いずれのスタートアップも早いうちに自動車OEMなどの大企業と提携することで、量産体制を構築しようとしています。
今後は、これらベンチャーを吸収した大企業同士の戦いとなることが考えられます。トヨタなどの超大企業と新興勢力の戦いは、粘り強く続けた者が勝つ泥沼の戦いになります。
今後も動向を注視していきます。
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