最近、電気自動車が急速に普及していますが、その一方で電池の充電時間が長いという問題が指摘されています。また、電池の寿命も重要な問題とされており、長寿命かつ急速充電性能に優れた電池が求められています。
このような課題を解決するため、研究開発が進められているのが、チタンニオブ複合酸化物の負極です。
本記事では、そのチタンニオブ複合酸化物の負極の特徴やメリット・デメリットについて詳しく解説します。
チタンニオブ複合酸化物って?
チタンニオブ複合酸化物は、リチウムイオン電池に使われる電極材料のひとつです。
現在、リチウムイオン電池に使われる負極は黒鉛(グラファイト)です。グラファイトは充放電時にリチウムを含んで膨張・収縮する性質があり、この膨張収縮が電池の劣化を招いています。
膨張収縮を小さくして、耐久性を向上させる負極にチタン酸化物の負極が存在します。このチタン酸化物に、ニオブを添加したものが、チタンニオブ複合酸化物と呼ばれる負極です。
耐久性が高いチタン酸化物の負極に、ニオブを添加したもの
他の電池素材との比較
以下の比較表と共に、黒鉛・シリコン・チタンニオブ酸化物負極を比較します。
黒鉛 | シリコン | チタンニオブ酸化物 | |
---|---|---|---|
理論容量 | 372 mAhg-1 | 3579 mAhg-1 | 387 mAhg-1 |
密度 | 2.25 gm-3 | 2.33 gm-3 | 4.34 gm-3 |
体積膨張率 | 10 % | 280 % | 4 % |
従来の負極に使用されていた黒鉛は、容量の限界に達しており、高容量化には限界がありました。
黒鉛に代わる新しい素材として注目されたのがシリコン負極です。シリコン負極は、合金系の負極であり、高いエネルギー密度を持つ一方で耐久性が劣ります。特に、シリコンの膨張率が280%と高く、簡単にクラックが発生するため、サイクル寿命が短くなってしまいます。
耐久性が求められる用途に向けた負極として、チタン酸化物系の負極が用いられています。世界初の個人向け電気自動車の電池の負極には、黒鉛ではなくリチウムチタン酸化物が用いられました。
近年の研究では、チタン酸化物の負極に、ニオブなどの不純物元素をドーピングすることで、さらなる高寿命化と高速充電特性が達成できることが知られ、ニオブチタン酸化物の負極が注目されています。
チタンニオブ酸化物は、黒鉛と同等の理論容量で、密度が高く体積膨張率が低い
特徴やメリット・デメリット
チタンニオブ酸化物負極のメリット
- 体積変化が小さく長寿命
- 密度が大きい
チタンニオブ複合酸化物の負極の特徴は、体積変化が小さく、密度が大きいことです。
チタン酸化物系の材料は、リチウムイオン電池の負極材料としては比較的長寿命性能が高く、充放電サイクル数が多いとして知られています。また、チタンニオブ複合酸化物は、体積変化が小さいため、充放電サイクルを繰り返しても材料の劣化が少ないという特徴があります。
密度が大きいため、狭いスペースにたくさん電池を詰め込めるようになるため、高い容量を実現できます。
チタンニオブ酸化物負極のデメリット
- 理論容量が黒鉛とほぼ同じ
チタンニオブ複合酸化物の負極は、理論容量が黒鉛とほぼ同じため、電池のエネルギー密度が向上するわけではありません。そのため、高い容量を必要とするアプリケーションには向いていないというデメリットがあります。
開発する企業
チタンニオブ複合酸化物の負極材料の開発には、いくつかの企業が取り組んでいます。その中でも、クボタと東芝が注目されます。
クボタ
クボタ株式会社は、自動車用ブレーキパッドなどに使用されるチタン酸化合物を供給するなど、チタン酸化合物の産業向け材料を供給してきました。
同社はチタン酸化合物の量産実用化において、ノウハウを用いてリチウムイオン二次電池用負極材料であるチタンニオブ複合酸化物の合成技術及び製造プロセス技術を開発しました。
2024年末に量産を開始し、月間生産能力を段階的に引き上げる予定です。
東芝
東芝株式会社は、リチウムイオン電池の負極材料として、ニオブチタン酸化物(NTO)を使用することを検討しています。
同社は、負極材料であるSCiB™開発で培ってきた独自の電極化技術を用いることで、粒子の結晶性を高めてリチウムイオンの拡散性を向上させ、従来のSCiB™(20Ahセル)の1.5倍のエネルギー密度を目指しています。
太平洋セメント
太平洋セメント株式会社は、チタンニオブ酸化物負極活物質の製造方法を特許出願しており、チタンニオブ複合酸化物の負極の開発に取り組んでいます。(特開2018-032569)
ただし、同社が販売している情報は公開されておらず、現時点では製品化の状況は不明です。
この素材の将来性
チタンニオブ複合酸化物の将来性はどの程度なのでしょうか。以下は筆者の私見です。
次世代の負極材料は、高容量:シリコン、耐久性:チタン酸化物が次世代負極の筆頭候補であると考えます。
現在のリチウムイオン電池の課題は、小さい容量や耐久性、安全性です。
チタンニオブ複合酸化物の負極は、耐久性を改善する可能性を秘めています。一方で、理論容量が黒鉛とほぼ同じため、さらなる高容量化は困難であり、シリコン負極に比べるとインパクトに欠けます。
高いエネルギー密度を実現するための負極の最終形態は、シリコン負極だと考えられますが、実用化にはまだ多くの課題が残されています。シリコン負極の実用化は早くても2025年以降とされています。
チタンニオブ複合酸化物の負極は、耐久性が求められる用途では、広く活用されることになると考えられます。
高容量のシリコンと、耐久性のチタン酸化物が次世代負極の筆頭候補
まとめ
チタンニオブ複合酸化物の負極がリチウムイオン電池に活用されるようになれば、長寿命化が期待できます。
しかし、理論容量が黒鉛とほぼ同じため、容量の限界があるという問題があります。現在のところ製品に採用されているという話は聞かれていませんが、将来的にはリチウムイオン電池の主要な負極材料となる可能性があります。
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