テスラが市場での主導権を維持し続けるための一つの鍵が、電池技術の革新とその生産能力の強化です。これまでサプライヤーから電池を調達していたテスラは、競争力の源泉となる電池セルの内製化を始めています。
4680セルは、テスラが将来のEVの需要を満たすために内製戦略の中心としているバッテリーです。この記事では、テスラのこの新しい電池技術の詳細と、それが業界にもたらす影響について深く考察します。
テスラは電池の内製化を進める

テスラは、CATLやLG Energy Solutions、パナソニックなど、多くの外部バッテリーパートナーに頼ってきました。また、最近ではBYDからもEVバッテリーセルを購入し始めています。
EVの急速な普及に伴い、自動車産業では電池の供給が鍵となっています。トヨタのような他の自動車メーカーも電池の内製化を進め、電池メーカーに過度に依存しないようにする計画を立てています。テスラはこのトレンドをリードしており、カリフォルニア州フリーモントの近くで電池セルの生産を強化しています。長期的な目標としては、ギガネバダでの生産計画を本格化させ、年間100GWhの生産を目指すとしています。
テスラ内部の取材は至難の業です。広報担当部署はイーロン・マスクが3年前に廃止。株式公開企業には考えにくい外部遮断の状況で、状況を知る米メディア関係者は「サプライヤーや退職者から様子を探った方がいい」と漏らすほどです。
テスラの内製電池セルの性能

米メディアThe Limiting Factorが、モデル3とモデルYに搭載しているセルを解体し、コインセルの状態で性能評価した値が公表された内容を以下に示します。評価されたのは2022年2月頃に調達されたテスラ内製4680タイプのバッテリーセルで、主なセル性のは以下の通りです。
- エネルギー密度: 272-296 Wh/kg
- セルの重量: 355g
- 推定総容量: 26.136Ah
- 総エネルギー: 96〜99Wh (3.7〜3.8Vと仮定)
この性能は、市場での最先端のバッテリーセルと同等であると言えます。

エネルギー密度の観点で言えば、テスラの内製電池は、これまでパナソニックやCATLが供給してきた電池セルよりも高くなっています。
正極厚みでエネルギー密度を向上

高いエネルギー密度を実現するために、正極の電極厚みが影響してします。
従来用いられている2170セルの正極の厚みは60-70μmでした。4680セルでは、正極厚みを85μmに増加させており、これがエネルギー密度を押し上げています。

一般的に、電極を分厚くすることで、単位面積あたりの活物質の量が増えるため、電極自体のエネルギー容量は増加します。一方で、リチウムイオンが電極内部を移動する距離が長くなるため、電池の充電・放電速度が低下する、内部の抵抗が増加する、製造コストが増加する可能性がある、などの背反を抱えています。
電池セル構造

テスラの4680セルは、集電タブの構造を工夫することで、電子伝導パスを短くし、放熱性も改善することに成功しています。
集電タブは通常、正極・負極の集電箔の端部に取り付けられます。この集電タブ間の距離が長いと、電子は集電タブまで移動する必要があり、ここで集電ロスが生じます。
集電距離を短くするために、タブに見立てた切込みを集電箔に入れて、織り込む工夫がなされています。これにより、集電ロスが小さくなり、取り出せるエネルギーが多くなります。
正極はNCM系電極を使用

NCM 811正極化学物質が使用されており、ニッケル含有量は81.6%と分析されています。また、コバルトやマンガンの正確な量は不明ですが、アルミニウムは含まれていないことが確認されています。
画像中のDBEは、Dry Battery Electrodeを意味します。
従来のリチウムイオン電池の製造プロセスでは、電極材料(通常は活物質、バインダー、および導電助剤)を有機溶媒(例:N-methyl-2-pyrrolidone, NMP)に混ぜることでスラリー(ドロドロの液体)を作成します。このスラリーを電極の基材に塗布し、スラリー中の溶媒を炉で乾燥・蒸発させて残った構造が電極です。乾燥には熱(エネルギー)と時間が必要となるため、工程を短縮するためには乾燥工程を省いた電極作成が必要です。
DBEは、有機溶媒を使用せずに、乾燥状態で電極材料を直接基材に塗布する方法であり、テスラの4680セルでは、負極の工程に使用されています。
負極はシリコンなし

負極の分析では、構成される材料が黒鉛のみで、シリコンが存在しないことが明らかになっています。
これは驚きの事実であり、最先端のリチウムイオン電池のアノードには、通常、容量やエネルギー密度を高めるために10〜15%のシリコンが添加されています。
テスラがなぜ今回の電池にシリコンを使用しなかったのかは定かではありませんが、これにより10Wh/kg程度のエネルギー密度のロスがあるものと思われます。
今後の見通し

テスラのバッテリー技術は、今後も進化を続けることが予想されます。2022年2月のテスラの第一世代のセルは98Whのエネルギーを持っていましたが、2023年には108Wh (10%増加)、2024年には118Wh (9.3%増加)になるとの予測があります。
性能向上の手立ては比較的簡単で、なぜか抜かれた負極のシリコンを投入すること、電極厚みの最適化などが考えられます。
まとめ
テスラの4680セルのように、自動車メーカーが電池を内製化する流れは、EV業界の新しい標準となる可能性が高いです。トヨタ自動車も、テスラと同様に電池セルを内製化することを検討しています。
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