BYDはなぜ強いのか?

BYD 中国

近年、EV市場は目覚ましい成長を遂げています。中でも、中国の自動車メーカーBYDは、テスラを抜きEV販売台数で1位に躍り出るなど、自動車業界にその名を轟かせています。

BYDの成功の要因は、手頃な価格設定と、独自の技術開発による高いコストパフォーマンス、そして国内外での積極的な市場展開が挙げられます。

この記事では、BYDが世界のEV市場で急成長を遂げる背景にある要因を探り、その成功の秘訣を解明します。

BYDの成功要因

BYDは中国の電気自動車(EV)メーカーとして、国内外で顕著な成長を遂げています。BYDは世界で302万台の世界販売台数を達成。EVとPHVに特化するBYDは、EVは157万台、PHVは143万台を販売し、全体の販売台数は日本の自動車メーカーのスズキと同じ規模にまで拡大しました。

その成功の背景には、以下の要素が挙げられます。

  • 手頃な価格設定(内製化によるコスト削減)
  • 海外販売と生産への積極的投資

これらの要因が組み合わさり、BYDのEVはヨーロッパやタイ、さらには日本市場においても支持を集め、販売台数を伸ばしています。

手頃な価格設定(内製化によるコスト削減)

BYDの成功の理由は、他の競合車種よりも価格が手頃である点にあります。テスラやフォルクスワーゲンなどの海外メーカーに比べて支持を集めています。欧州市場では、欧州の大手メーカーよりも車両価格が平均2~4割安いとされています。

BYDと他社EVの価格比較、同じ電池容量帯のなかで、シール、ドルフィンは低価格であることがわかる(国内外販売価格をもとに当サイト作成)

タイでは、BYDのSUV「ATTO3」や小型EV「ドルフィン」が幅広い層に普及しており、価格が比較的安価であることが人気の理由です。ただ、低価格であるにも関わらず利益率は高く、23年7~9月期のBYDの利益率は6.4%で、テスラ(7.9%)に次ぐ高い収益力を示しています。 高い収益を実現している要因は以下が挙げられます。

  • 部品内製化による調達コストの削減
  • 販売台数の増加による量産効果

BYDはバッテリーメーカーであることから、EVのコストの1/3を占めるともされる電池の低コスト化が可能です。その他、EVに不可欠なe-Axleなどの部品をすべて内製しており、販売台数が増えることによる量産効果も相まって、他社では実現が困難な低コストを実現しています。

海外販売と生産への積極的投資

BYDのEVが世界市場で成功を収めているのは、単に価格競争力にあるわけではありません。他の要因の1つが、海外(中国国外)への進出です。

BYDは海外市場進出を推進し、中国市場への依存度を減らす戦略を展開しています。2024年の海外販売数は24万台を超え、海外販売比率は8%です。決して高い数値ではありませんが、今後BYDは海外販売比率を高めていくようです。日本市場でもSUVのEV「ATTO3(アット3)」や小型EV「海豚(ドルフィン)」を販売しています。

テスラモデル3の対抗馬となる「SEAL(シール)」も、高い商品性と、コストを低減したバッテリー技術で日本市場に乗り込んできています。ジャパンモビリティショーで展示されたSEALは、低価格セダンとは思えない高級感で、来場者の興味を引いていました。

中国国内での販売は逆風です。2025年には、世界での新エネルギー車の生産能力が3600万台以上に達する見通しにも関わらず、そのうち中国の販売見通しは1400万~1600万台程度であり、増えすぎた中国自動車メーカーからの供給過剰のリスクが存在しています。

中国政府は、生産過剰で余ったEVを輸出することで、自動車工場の稼働率低下を防ぎ、供給過剰問題を解決すると考えているようです。以下では、インドネシア、メキシコでの進出計画を紹介します。

byd explorer no 1

輸出にあたり最大のボトルネックとなるのが、船舶での「輸送力」です。BYDは自社専用のRORO船を独自に保有する計画を打ち出し、EV7,000台を積載できる能力を手に入れています。BYDは、2023年から2年以内に自社専用のRORO船を8隻確保する計画を進めており、「BYDエクスプローラーNo.1」がその先駆けとして、2023年2月下旬にオランダとドイツの港に到着しました。

中国自動車輸出における輸送の重要性と対策について、以下の記事で詳しく解説しています。

インドネシアでの販売と製造を予定

BYDはインドネシア進出を発表。インドネシア市場で「アット3」「シール」「ドルフィン」の3車種を販売し、販売店を7カ所開設、2024年までに50カ所に増やす計画です。

BYDは中国からの輸出を増やす一方で、新たな海外工場建設にも注力しています。BYDには国内生産で販売しきれない車両を海外に輸出する思惑がある一方で、インドネシア政府にも目論見があります。インドネシア政府はEV産業を支援し、国内の豊かな資源を活かして新たな産業を育成する計画を進めているのです。

インドネシアは、リチウムイオン電池に用いるニッケルなどの資源が豊富であり、資源国としての強みをもちます。

BYDは現地(インドネシア)で工場建設を予定し、自動車産業をインドネシア国内で育てる準備を進めています。インドネシアでは新車販売のうちEVの割合は1%程度ですが、BYDの投入により市場が拡大する見込みです。

インドネシアでは、特に高価な車両や排ガスの排出量が多い車両の新車購入に対して、高率の税が課されることが一般的です。これは高価な商品やサービスに課される税金である奢侈税(しゃしぜい、Luxury Tax)と呼ばれますが、EVの現地生産の計画がある場合には奢侈税も減免されるなど、インドネシア政府は税制優遇を整えています。

同様に、EVの現地生産の計画がある場合、輸入車の関税も優遇されます。BYDは税制優遇を受けるため、現地生産を前提とした販売を目論んで、政府と交渉しているようです。

メキシコでもEV生産を検討

BYDは、メキシコでの電気自動車(EV)生産を検討し、米国向けの輸出基地として育てる意向を表明しています。 メキシコシティでBYDの代表ジョウ・ゾウ氏が「海外生産は国際ブランドにとって不可欠であり、メキシコは重要な市場であり、大きな潜在力を有する。そのため、積極的に工場建設に取り組む」と述べました。

テスラはメキシコにもギガファクトリーを建設する計画

メキシコはEV市場が堅調に成長しており、米国に近いこと、USMCA条約*により米国への輸出に適している、などのメリットも多い国です。現在詳細な調査が進められており、メキシコのヌエボレオン州やバヒオ地域、ユカタン半島などが候補地として浮上しています。メキシコでは、多くの企業がEV生産に乗り出しています。 テスラなども工場建設が予定されており、BYDもそれに続くことになりそうです。

*アメリカ合衆国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)は、2020年7月1日に発効した貿易協定で、メキシコで製造された車両がUSMCAの原産地規則を満たす場合、アメリカへの輸出時にゼロ関税を適用できるようになります。つまり、メキシコ製の車両がより有利な条件で米国に輸出されやすくなります。

各国での工場建設を予定

地域活動内容
アジアタイ
(2024年稼働)
EV工場の建設、年間15万台の電気自動車の生産​
インドネシア
(2024年着工)
組立工場の建設、年間生産能力15万台​
北アメリカメキシコ
(計画未定)
EV工場の検討、米国向けの輸出ハブとしての構築​
ヨーロッパハンガリー
(2027年目標)
工場設立の計画、電気自動車およびプラグインハイブリッド車の生産​
南アメリカブラジル
(2025年初稼働)
生産複合施設の建設、電気バス・トラックシャーシおよび新エネルギー乗用車の生産ライン、リチウム鉄リン酸塩(LFP)バッテリー材料の加工工場を含む​

世界的なEV市場は、ニアショアリング(近隣地域での製造)が進展しており、販売する市場の近くで製造工場を持つようになりつつあります。

BYDはタイやハンガリーでの工場設立を計画、ブラジルでは巨額な資金を投入して新工場を建設する計画が進行中とされています。

まとめ

BYDの電気自動車が世界市場で成功を収めているのは、単に価格競争力にあるわけではありません。内製化戦略によるコスト削減、革新的な技術の導入、そして政府の支援による市場の拡大など、多角的なアプローチがBYDを支えています。

インドネシアやメキシコへの進出など、海外市場への積極的な展開は、BYDのグローバルブランドとしての地位を不動のものにしていくと考えられます。これらの戦略が組み合わさり、BYDは今後もEV市場のトレンドをリードする存在であり続けるでしょう。

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この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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