中国BYDの「SEAL」の電池は何が凄いのか?

車載電池

中国の大手自動車メーカー、BYD(比亜迪)は、2022年5月に電気セダン「SEAL」(シール)の先行販売を開始、世界中で注目を集めている車種です。日本でも2023年末から販売される予定です。

このSEALの、特に電池技術面について、何が凄いのかを詳しく解説します。

セル・トゥ・ボディ(CTB)技術の採用

BYD SEAL(BYDホームページより)

Seal(シール)は、中国の大手電気車メーカーBYDによって開発された車であり、その最も顕著な特徴の一つがセル・トゥ・ボディ(CTB)技術です。通常、バッテリーセルは車体とは独立したものとして製造され、後から車体に組み込まれます。しかし、CTB技術はこれを一新し、バッテリーセルと車体を一体化させています。

従来の電池パックは、電池セルをモジュール(図青色)に分割してパックに配置する

セル・トゥ・ボディ技術の目的は、狭い領域になるべく多くの電池セルを詰め込むことにあります。従来は、電池セルをモジュールに収納し、数十のモジュールをパックに収納、パックをボディやシャシーに組み付けて搭載していました。

セルtoボディでは、電池セル(図の円筒のもの)を直接バッテリーパックに配置、パックも車体構造としての役割を持つ

セル・トゥ・ボディ技術では、セルを直接ボディに設置し、電池を「構造部材」の一つとして利用することで、なるべく多くの電池を車に積むことを目指したものです。

テスラモデルYのCTB技術のカットモデル

セル・トゥ・ボディ技術は従来の設計に比べて構造強度が高くなるとされています。構造強度とは、物体が外部からの力に耐えうる度合いを指します。一体化された設計によって、車体がより堅牢になり、衝突時などの安全性が向上する可能性があります。

CTB技術は、車体の全体重量を減らす効果も期待されています。一般的に、車の重量が軽くなればなるほど、燃費性能が向上します。特に電気車においては、車体重量の削減はバッテリーの持ち時間の延長に直結します。

ブレードバッテリーはLFPの角形電池

テスラの円筒電池
BYDの角形電池

さらに注目すべきは、テスラの円筒型の4680セルとは異なり、BYDがこのバッテリーセルを特に六角形に設計した点です。この電池セルは、LFP(リチウム鉄リン酸)を使用しています。

LFPはニッケルやコバルトなどの高価な素材の代わりに、鉄とリン酸を使用した廉価版リチウムイオン電池です。中国市場の低価格EVはほとんどがLFP電池を採用しており、SEALも例外ではありません。

ブレードバッテリーの寸法

角形は面積効率が高い形状とされています。面積効率とは、与えられた面積内でどれだけ多くの物を配置できるかという指標です。角形の電池形状によって、バッテリーパック内の密度が向上し、より多くのエネルギーを蓄えることができます。結果として、航続距離が延長される可能性が高まります。

以下はBYDブレードバッテリーセルの主要な設計パラメータをまとめた表です。

項目仕様
名称電圧3.2V
名称容量138Ah
寸法960*90*12.0 mm
正極のサイズ944*83 mm
負極のサイズ946*85 mm
正極電極シートの数26枚
負極電極シートの数27枚
正極表面容量3.39 mAh/cm^2

BYDは、開発した「ブレードバッテリー」を「Atto 3」や「Dolphin」にも採用しており、「e-Platform 3.0」という名称のプラットフォームとして扱っています。

SEALが特別であるのは、このブレードバッテリーの搭載方法がCell to Bodyであるという点のみで、バッテリーセルそのものは他の車種の電池セルと大きく変わらないと考えられます。

ブレードバッテリーは正極に安価なLFPを採用しており、エネルギー密度は高くない

BYDのブレードバッテリーセルは、正極をLFP、負極を黒鉛で構成されており、LFPセル1枚あたりのエネルギー密度は180Wh/kg程度と、決して高くはありません。正極材料のLFPは、粒子の大きいものと小さいものが混ざっているようで、電池性能を向上させるための工夫が垣間見えます。

航続距離と価格

SEALの航続距離は、最大で550km、650km、700kmという3つのバージョンが提供されています。電池パックエネルギー容量は、61.44 kWhと82.56 kWhの二つのバージョンが提供されています。BYDは、2023年末には日本にもSealを導入する計画がありますが、日本の公式サイトでは、航続距離の長い82kWhのみ諸元の表記があります。

駆動航続距離電池容量
2輪駆動550km61.44 kWh
4輪駆動650km82.56 kWh
2輪駆動700km82.56 kWh日本で導入計画あり

最近、SEALの価格は改定されています。当初の販売価格が約419万円~約573万円でしたが、2023年初頭にベーシックバージョンの価格が189,800元(約379万円)から始まると改定されました。

この価格の値下げは、テスラの値下げに追従するためにBYDを含む中国EV勢も値下げで対抗したものです。しかし、値下げしたにも関わらず、過去2ヶ月間で中国で登録されたSEALの数は約6000台にとどまっています。中国国内の競争激化と、成長の鈍化が感じられます。

まとめ

日本でも投入される予定のSEALは、電池セルを直セルボディ構造に埋め込むタイプの構造をもつ「ブレードバッテリー」を採用しています。ブレードバッテリーの採用により、車両としてのエネルギー密度が向上し、航続距離が向上しています。日本での登場が楽しみな1台です。

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