Huaweiは米政府の輸出規制によりスマートフォン事業に打撃を受け、その新たな収益源として自動車関連事業に注力しています。
本稿では、ファーウェイの自動車事業戦略を俯瞰してみます。
ファーウェイは新たな収益源を自動車関連事業に求める
ファーウェイは、米政府の輸出規制によるスマートフォン事業への打撃から回復するために、自動車関連事業に注力しています。2022年末までには約7000人の従業員が研究開発に携わるための総額30億ドル(約4500億円)の投資を行っています。
ファーウェイは自社では自動車を製造しておらず、他の自動車メーカーのブランドの開発や製造・販売を支援する立場をとっており、当然ながらファーウェイブランドでの自動車も販売していません。
ファーウェイのインテリジェント・オートモーティブ・ソリューション(IAS)事業部門のCEOは、ファーウェイの光学製品のCEOであるジン・ユージ(Jin Yuzhi)氏です。
2022年12月期の自動車事業の売上高は約21億元(約440億円)に過ぎず、これはファーウェイ全体の売上高のわずか0.3%に過ぎません。
ファーウェイは自動車事業部門を黒字化することを目指しており、2025年までに黒字化を達成する予定です。
Huaweiの自動車事業は、以下の3つの柱で成り立っています。
- 自動車部品の提供
- Huawei Inside(HI)
- 華為智選(ファーウェイ・スマート・セレクション)
以下で、これら3つを順番に解説します。
Huawei製自動車部品の強みは「最新の自動運転システム」
Huaweiの強みの1つは「最新の自動運転システム」です。テスラの「オートパイロット」と同様のシステムで、車両のハンドル・アクセルブレーキ操作を補助するものです。
長安汽車とHuaweiは、共同で高級EVメーカー「アバター」を設立しています。このアバターのEVには、Huaweiの技術が多く取り入れられており、Huaweiの第2世代運転支援システム「ADS 2.0」が採用されています。さらに、カメラやセンサーもHuaweiの内製品となっています。
電動パワートレーンも開発
また、電動パワートレーンや熱マネジメントシステムもHuaweiが担当し、駆動用モーターやインバーター、減速機を一体化した形式の電動アクスル(DriveONE)が採用されています。さらに、Huaweiの車載OSである「鴻蒙(Harmony、ハーモニー)OS 4.0」も搭載されています。
e-Axleに関して言えば、モーター制御ユニット、モーター、減速機、オンボード充電器、DCDC、PDU、およびBMS(バッテリーマネジメントシステム)ソフトウェアアルゴリズムを統合した120kW級の「X-in-1」も開発しており、EVのプラットフォームをソフト・ハード共に供給できる体制を構築しようとしています。
Huaweiのビジネスモデルは長安汽車と立ち上げた「アバター」が典型例で、Huaweiは自動車メーカーのブランドの開発や販売に協力し、自動運転などのシステムや部品の供給を広げて稼ぐ目論見です。
メーカーと共同でブランドを運営
ファーウェイは、「Huawei Inside(ファーウェイ・インサイド、HI)」戦略を通じて、中国の自動車市場での影響力を広げています。ファーウェイ・インサイド戦略では、自動車メーカーと提携し、共同でブランドを運営し、ファーウェイの部品やシステムを同ブランドのクルマに供給する方法を採用しています。
華為智選(ファーウェイ・スマート・セレクション)
ファーウェイは部品やシステムの供給だけでなく、車両の販売まで支援する「華為智選(ファーウェイ・スマート・セレクション)」という事業モデルにも力を入れています。
セレスと協業する「AITO」ブランド
その中で注目すべき例は、セレスグループと提携している「AITO(アイト)」ブランドです。2024年モデルのプラグインハイブリッド車「M7」は、わずか1カ月で5万台以上の受注を獲得しました。
奇瑞汽車(CHERY)と協業する「Luxeed」ブランド
さらに、ファーウェイは奇瑞汽車(Chery)とも提携し、新しいブランド「智界(Luxeed、ルクシード)」を立ち上げる予定です。2023年11月には新しいEV「S7」を発売。24年3月から本格的な量産を始めています。
Luxeed 7Sには、CATLの開発するLFP電池の改良版、M3P電池が搭載されている、と報道されています。廉価版でありながらエネルギー密度を高めたCATLの最新版の電池で、Luxeed 7Sが最初の搭載車両となったとされています。
これらの動きから、ファーウェイは通信機器事業の米政府の制裁に苦しむ一方で、自動車事業では中国国内での協業の範囲を広げ、プラットフォーマーとしての地位を築こうとしていることがわかります。
トヨタがHuaweiのスマートコクピットを利用
トヨタとファーウェイが開発した車両システムを搭載した中国市場向けの新型9世代カムリが発売されました。トヨタは、ファーウェイのスマートコックピット分野で協業をしており、中国市場向けのスマートコクピットにHuaweiの技術を採用している、とされています。
トヨタとHuaweiの協業は、自動運転機能にも及ぶ可能性があります。、2024 年 4 月 25 日から 5 月 4 日まで開催される北京モーターショーで、HuaweiとMomentaとトヨタの協業を発表するとされています。
Huaweiの自動車関連事業を分離し新会社を設立
Huaweiは、電気自動車(EV)事業の連携を強化するために、自動車関連事業を分離し、新会社を設立する計画を立てています。この新会社には、Huaweiの既存の車関連事業が移管される予定であり、長安汽車は最大40%の出資を予定しています。
Huaweiは、長安汽車との協力を深化させるだけでなく、他の多くの自動車メーカーとも連携していくと述べています。セレスや中堅の安徽江淮汽車集団(JAC)も出資を検討すると表明しています。この動きにより、自動車メーカーとHuaweiの共同出資関係が強化され、短期的に見て関連車両の年間販売台数が100万台前後に達する可能性も指摘されています。
年間100万台という数字は驚異的です。中国のBYDは300万台、テスラが中国国内で60万台を販売するなかで、Huaweiの技術を搭載した車両が100万台生産されることになれば、Huaweiのコスト低下も進み、中国国内で更にHuaweiを頼るメーカーが増えてくることが予想できます。
ファーウェイと組む「リスク」
ファーウェイは米国からの制裁を受けています。多くの中国自動車メーカーが欧州やアジアなどで販売を伸ばすなかで、米国からの制裁リスクを考えるとファーウェイと組むことはマイナス要素になりかねません。
ファーウェイ自身も「米欧日の企業はファーウェイを主要なサプライヤーとして選ぶことは難しく、私たちのパートナーは主に中国内に限られる」としており、中国市場への注力を明言しています。
中国国内のサプライチェーンが強化されてきていることもあり、ソフトウェアおよびe-Axleの中国国内での調達は現実的になりつつありますが、電池などの一部部品の品質を担保するためには日本のメーカーに頼る必要があり、今後数年は苦しい経営を強いられそうです。
まとめ
ファーウェイは自動車関連事業への注力を強めており、新たな会社の設立や他の自動車メーカーとの協力により、事業の発展を目指しています。ファーウェイは自身のブランドや部品・システムの供給に加え、車両の販売も支援しています。自動車事業での成功により、ファーウェイはポジティブな印象を残すことが期待されています。
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