米・ベンチャー企業、QuantumScapeは2020年末、同社の全固体電池の性能評価結果を公表しました。
その結果からは、驚異的な性能が垣間見えます。
この記事では、他社の全固体電池や、液系のリチウムイオン電池と比較して紹介します。
QuantumScapeの全固体電池の性能
エネルギー密度
QuantumScapeの全固体電池セルは300-400Wh/kgの重量エネルギー密度を発生するとされています。
他社と比較すると、2021年初頭に発表されたNIOの全固体電池セルは360Wh/kgであり、これと同等の水準のエネルギー密度にいることがわかります。
この高いエネルギー密度について、リチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞を受賞したウィッティンガム教授も、QuantumScapeの全固体電池のデモに感銘を受け、以下のようにコメントしています。
something that has never before been reported. If QuantumScape can get this technology into mass production, it holds the potential to transform the industry(これまで報告されたことのないものだ。もしQuantumScapeがこの技術を量産化できれば、業界を一変させる可能性を秘めている。)
Stanley Whittingham, a professor at State University of New York
エネルギー密度に関しては、現状世界トップクラスの性能を持っています。
急速充電
急速充電について、15分で80%まで再充電できるとしています。これは、一般的なEVバッテリーに必要な時間の約3分の1です。
近年は、全固体電池以外にも充電速度が速い電池が登場しており、中国CATLが2021年8月に発表したナトリウムイオン電池も、80%までの充電を15分で完了するとしています。
ナトリウムイオン電池は、実用的には2020年代中盤から市場投入されていくとみられており、実用化に向けて技術開発が進められています。
広い動作温度
QuantumScapeの発表内容によれば、–30℃という低い温度で全固体電池が動作する事を確認したとのことです。
発表資料から読み取ると、0℃で電池セルのエネルギー密度が400Wh/kg超、-30℃で250Wh/kgを維持できる模様。250Wh/kgは、テスラに採用されているパナソニックのニッケル系リチウムイオン電池セルと同等のエネルギー密度であり、それを極低温でも動作させられる点が驚きです。
充放電サイクル耐久性
QuantumScapeの発表内容によれば、800回の充電サイクルで容量の80%以上を維持するとしています。800回の充放電は、38,000km運転とほぼ同等です。
一方で、自動車メーカーが要求する充放電サイクル寿命は3000回以上とすることが多く、これは10年、10万kmをひとつの耐久性の目安とするためです。
QuantumScapeが公開したデータを見ると3000回のサイクル試験でも60%は維持できるように見受けられます。
QuantumScapeの全固体電池の特徴
驚異的な性能を示すQuantumScapeの全固体電池、この性能はどこから得られるのか。一般的な全固体電池と異なる部分を説明します。
固体電解質にLLZOを使用
QuatumScapeは、主要な材料やプロセスの一部など、全固体電池に関する詳細をまだ公表していません。CEOのシン氏は、材料とプロセスは最も厳重に保護されている企業秘密の1つであると述べています。
一部の研究者は、特許出願に基づいて、電解質がLLZOとして知られている酸化物であると考えています。このLLZOは、アノードに発生するデンドライトの問題を解決するために採用されています。
デンドライトは、バッテリーを短絡させる可能性のある析出物で、充放電中にリチウムイオンがアノードに移動する際、微視的な欠陥が増幅され形成されます。
デンドライトの問題の対処のために、QuantumScapeはドイツの化学者Werner Weppnerによって開発されたLLZOと呼ばれる新しい材料を利用したと考えられています。
ただし、LLZOはデンドライトの問題の影響を完全に受けないわけではなく、QuantumScapeが実際にこのソリューションを採用しているかどうかは不明瞭です。一方で、他の選択肢が不足していることを考え、LLZOを採用するほかに解決策がないと一般的に考えられています。
アノードフリー構造
QuantumScapeの全固体電池は、負極なしで製造されています。
全固体電池では、バッテリーが充電されると、正極のリチウムイオンがセパレーターを通過し、セパレーターとバッテリーの端の電気接点との間に完全に平坦な層を形成します。その後、そのリチウムのほぼすべてが、放電サイクル中に正極に戻ります。
つまり、アノードが動作していないため、アノードが不要となります。QuantumScapeの全固体電池は、負極をなくすことで、重量と体積がさらに削減され、製造コストも削減できるとしています。
収益の想定
QuantumScapeはまだ製品や収益がありません。製品化された電池は一つもないにもかかわらず、現在QuantumScapeは約200億ドルの企業価値がつけられています。
同社は、すべてが計画どおりに進んだ場合、2025年に全固体電池セルの販売を開始し、収益は2025年の3900万ドルから、2026年の2億7500万ドル、2027年の32億ドルへと徐々に増加すると予想しています。
QuantumScapeに出資するフォルクスワーゲンは、2025年にQuantumScapeの技術で自動車用バッテリーを生産することを目指していると説明しています。
2022年、 QuantumScapeは全固体電池セルの最初のプロトタイプを、テストのためにフォルクスワーゲンを含む自動車メーカーに出荷しました。現在、QuantumScapeは潜在的な発売パートナーとの協力関係にあるとされていますが、それが誰なのか、フォルクスワーゲンなのか、その子会社の1つなのか、あるいは完全に別の会社なのかは明らかにしていません。
残る多くの課題
ここまで読むと、QuantumScapeの全固体電池開発は順調に聞こえるが、落とし穴もあります。
QuantumScapeが公表している評価結果は、1枚のセルで実行されたラボテストからのもの。実際の自動車用バッテリーは、数十のセルがすべて一緒に機能する必要があります。
また、試作品から商業生産への移行は、電池開発における重要な課題であり、かつて有望だった多くのバッテリーのスタートアップが失敗して点でもあります。
他の競合他社は、QuantumScapeがこれまで厳密に1枚のセルをテストしただけであり、2025年までに車載電池としてリリースできるのか、必要な安全性テストを達成できるかどうか、大いに疑問視していることでしょう。
そういった意味では、中国NIOの発表した全固体電池は量産時期が2022年Q4と明確であり、QuantumScapeよりも先行しているかもしれません。
また、日本で全固体電池開発のトップをひた走るトヨタ自動車は、その電池の詳細を明らかにしていない(QuantumScapeよりよっぽど情報が出ない)ですが、トヨタは2028年に全固体電池を投入するとしています。
それでも投資は先行する
QuantumScapeの開発において、フォルクスワーゲンは2020年6月に出資を2億ドル増やし、投資の多くは全固体電池の研究に集中しています。
さらに、Microsoft創設者のビルゲイツ、ドイツの自動車サプライヤーコンチネンタル、中国の自動車メーカーSAICモーター、および多くのベンチャーキャピタルもQuantumScapeに投資をしています。
この資金力とフォルクスワーゲンのスケールを盾に、計画通り全固体電池を量産できるのか、2025年まで注目していきたいところです。
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