ベトナム国産自動車メーカーVinfast(ビンファスト)。ベトナムの不動産を中心とした投資会社ビングループ(Vingroup)の子会社で、この4~5年間で急速にグローバルな存在感を確立しています。
本記事では、Vinfastの自動車技術と、その将来性について紹介します。
VinFastとは
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VinFastは、ベトナムの新興自動車メーカーです。2017年にベトナム初の国産自動車メーカーとして設立されると、2019年6月には最初の自動車のデリバリーを開始しました。会社設立から21カ月で最初の工場を立ち上げ、2019年末稼働を開始。4年かかる工場立ち上げを2年でやり切ったとのことです。
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現在は、港湾都市ハイフォン市臨海部のカットハイ島の工場にて、高級車と、大衆向けの小型車をあわせて30万台規模で生産できる工場を構えています。
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Vinfastは年50万台生産可能な工場を視野に入れて展開しているともされています。CEOのレ・ティ・トゥ・トゥイ(Le Thi Thu Thuy)によると、生産工程の90%を自動化した世界トップクラスの製造拠点であるとされています。
自動車業界から見ると「ベトナムの大企業のお遊びかとおもってたら、ガチで国産メーカーになるつもりで末恐ろしい」企業です。
VinFastが急速に技術力を伸ばしている理由
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2017年に創業したVinfastは、欧米の自動車関連企業と協業し車両を開発することで、急速に技術力を伸ばしています。提携先は以下の通りです。
- 車両開発:BMW、マグナ・シュタイヤー、ピニンファリーナ
- ECUなどの電子部品:ボッシュやZF
- エンジン開発:オーストリアのAVL
- 車両の製造に関するノウハウ:シーメンス
AVLは内燃機関系の評価システムやシミュレーションにおいてよく知られている企業、シーメンスはドイツの製造業コングロマリットです。これだけの企業と提携することができれば、技術力を急速に伸ばすこともできるだろう、と納得させられます。
ベトナム国内の自動車販売シェア(2021)
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ベトナムでの2021年の販売台数では、シェアトップはトヨタ自動車の22%、次いで起亜、マツダ、三菱が続いています(マークラインズ集計)。
Vinfastの2021年のベトナム国内での販売台数は推計7400台(日経新聞引用)で、シェアは7%、たった数年でフォードの次に位置するようなメーカーにまで成長しています。
そもそも、ベトナムの四輪車市場は年40万~50万台規模と小さく、二輪が好まれる市場です。VinFastはベトナム国内だけでなく、国外への進出を模索しなければなりません。
米国進出を実現
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VinFastはかねてより米国進出を希望しており、2022年末に米国でIPO申請を行いました。数か月後に米国で上場する計画が難航を極めていましたが、8か月経過した2023年8月、ナスダック市場に上場を果たしました。
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上場時の時価総額は850億ドルとなり、時価総額でフォード(480億ドル)やGM(460億ドル)を上回りました。株式の99%をビングループ創業者のファム・ニャット・ブオン氏が保有する形です。
時価総額が非常に高い状況は、上場後も続いていますが、市場の反応は過剰で、実態にそぐわない株価の高騰が続いています。
VinFastの現在の時価総額850億ドルは、市場が過剰に反応した結果と考えます。上場直後の新興企業の多くが、取引の最初の数日で急騰し、その後下落する「上場ゴール」を経験します。VinFastは確かに魅力的な投資先ですが、現在の時価総額は現在の企業価値を表すものとはあまり考えられません。理由は以下の通りです。
- 経営の実態が非常に厳しい
- 「黒字化が2025年まで見込めない」と経営陣が認めている
経営状態を含めたVinFastの企業価値に関する考察は、以下の記事「VinFastがIPO、今の時価総額は企業価値に値するか?」でも紹介しています。
株式の公開を増やす方針を立てていますVinFastは、米ナスダックに上場する同社株に占める浮動株の比率を、2024年末までに10~20%に高める方針を示しており、長期保有目的を含めた多くの投資家に株式を売り出すことで、資金調達と株価の安定を図りたいようです。
VinFastは生き残ることができるか?
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VinFastの前途は多難です。
事業拡大を続けるVinFastですが、2020年収支は540億円の赤字です。23年1~6月期のEV含む製造部門の損益は約840億円の赤字で、赤字額は年々膨れ上がっています。
赤字の要因として、工場規模に対する販売台数の少なさが挙げられます。Vinfastの2022年のベトナム国内での販売台数は7400台(グローバル2万台)ですが、30万台規模で生産できる工場に対して売れなさすぎます。同様に、VinFastが強みとしているマグナやZF、シーメンスなど大手関連企業との提携には巨額の費用が必要と考えられ、固定費も下げ止まらないと想像できます。
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VinFastの経営は2025年までは黒字にならないと言われており、他事業での埋め合わせが可能と言っても苦しい状況。Vinグループ創業者のファム・ニャット・ブオン(Pham Nhat Vuong)氏は「24年には販売数は6万~7万台となり損益ゼロ、25年度には利益を生み出せる」とはしているものの、6~7万台の販売(工場稼働率20-25%)で利益が生み出せるのかには疑問は残ります。いつまでこの赤字をvinグループが許容するのか、今後どれだけ赤字を縮小できるのかが見ものです。
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EVメーカーで近年黒字化したテスラを例に比較してみます。2010年に上場したテスラは、上場から10年後の2020年、ようやく黒字化を達成しました。
テスラの黒字化も、排出権クレジットの売却益15億ドルが下支えしており、本当の意味で黒字化するためには、損益分岐点を超える台数を販売するほどの人気車種を生み出す必要があります。
10年後、vinfastが生き残るためには、とにかく生産台数を増やし、損益分岐点を超えるような人気メーカーとなる必要があります。そのためには、北米、欧州、アジアで積極的な投資と市場拡大を模索する必要があり、その過程で品質を担保していく必要があると考えます。
米国やインド、インドネシアでの現地生産も進める
米国進出のためには、現地生産が必須です。自動車メーカーが、米国の連邦政府購入奨励金(1台あたり最大7,500ドル)の適用を受けるためには、現地での生産が必須条件であるためです。
そのためVinFastは、ノースカロライナ州に自動車工場を建設し、2025年に稼働させる計画を公表しています。VF7、VF8、VF9を生産する予定で、生産能力は15万台を目標としており、ベトナム国内の半分の規模の生産拠点となります。
インド南部タミルナド州の港湾都市トゥティコリンでも、ビンファストは最大20億ドル(約2900億円)を投じて、最大年15万台の生産能力を持つEV工場を建設する予定です。インドネシアでも2024年から新工場建設に着手し、インドネシアでの投資額は少なくても12億ドルと見込まれています。
販売車種は8種類
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Vinfastは、ベトナム国内で内燃機関搭載車(ICE)を4車種、EVを4車種の計8車種を展開しています。日本では未発売、北米や欧州では一部車種を展開しているようです。
Vinfastは2022年末までに内燃機関系の自動車の製造を中止すると発表しており、今後はEVのVFシリーズが主力になると考えられます。
欧州車に劣らない質感
Vinfastが2019年に最初にリリースした車種、Vinfast LUX 2.0は、SUV型の高級車です。
内燃機関搭載車であり、設計・開発はBMWの車種をベースにマグナ・シュタイヤーが担当していることから、その車両の見た目も中身もBMWに近いものがあります。
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7人乗りのSUVで、縦置きタッチパネルやクルーズコントロール含め、最低限の機能は装備されています。この車両、インテリアや操作系部品がBMWの車種とそっくりに見えます。
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シフトノブもボタン類も、どこかで見たような形状。マグナ・シュタイヤーは、BMWのZ4やトヨタのスープラの生産を手掛けていました。他車種で使いこなしができている部品から選定して操作系を設計しているものと思われます。
ただ、vinfastの車両がベンツやBMWと同価格帯だと、ブランド力のないvinfastは訴求が難しそうです。
2022年にはEVメーカーにシフト
2019年に初めてガソリン車を販売した2年後、2021年には世界的な電動化の波に乗ってEV生産に進出しています。2022年にはガソリン車生産から完全に撤退し、EV専業メーカーへとシフトしました。
近年発売するEVモデルは、内装や装備に関しては独自の路線が見え始めています。
廉価版EV VF5
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最も廉価なEVであるVF5 Plusは5億3800万ドン(日本円で約312万円)です。
電池容量37.23kWhと、少し小さめでありますが、300km以上を走行可能の模様。
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インテリアはBMWのそれと比べても全く異なり、BMWのパクリ感は感じられなくなりました。
高級SUV VF9
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最上級グレードのEVは、VF9と呼ばれる3列7人乗りの高級SUVです。イタリアの有名なデザイン企業ピニンファリーナによってデザインされており、デザインは超一流です。この車種は北米でも発売されており、2023年にデリバーされる予定です。
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2022年9月末現在、もう一回り小さいVF8と、このVF9のSUVを合わせて5万8000台の予約が入っているとのことで、期待されている車種であることが分かります。高速道路の運転支援や、スマートパーキング機能も有しており、欧州、日本のOEMと比べても見劣りしない機能が搭載されています。
このあたりは、協業しているサプライヤー(マグナやZF)の技術力がそのまま発揮されているように見受けられます。価格は約76,000ドル(約1100万円)からで、長距離型のテスラ(TSLA)モデルYの約66,000ドルと比べても高価です。
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VF9議論の余地があるのは、15.6インチのパネルひとつですべてを操作する、テスラのようなインテリアを持つモデルであることです。ステアリングホイールの向こう側にインフォパネルなどもなく、すべての情報表示と操作が一つのモニタに統合されています。賛否両論分かれそう。
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ベトナムではテスラなど他社製も含めてEVの乗用車はほとんど見かけない状況です(そもそも4輪が少ない)。ベトナム国内でEVを販売するというより、北米での事業拡大の足掛かりとする狙いがあるようです。
EVはバッテリーのリース提供を計画
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EVを低価格で提供するために、バッテリーのリースを計画しています。
購入者がバッテリーをリースすることを選択すれば、価格76,000ドルのVF9を、57,500ドルという低額で購入することができます。
これは、中国のEVメーカーであるNIOが顧客に提供しているものと同じです。バッテリーをリースすることで、車の初期費用を抑え、購入価格を同等のガソリン車と同程度に低減します。月々の支払いは、ガソリン給油一回の支払いとほぼ同じになるようです。
このバッテリー交換の方法は、EVの普及を阻む要因の一つである初期費用の負担を軽減する方法として、今後主流になる可能性があります。
タクシーとしても利用
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VinFastのEVは販売台数が伸び悩んでおり、生産設備への過剰投資が指摘されています。そんな中、ビンファストがタクシー事業に参入することで、販売促進を狙っています。
ビングループの一企業であるグリーン・スマート・モビリティーは、ビンファスト製EVを使用してタクシー事業を行っています。当初は首都ハノイで展開するほか、南部ホーチミンや中部フエなど、年内に全国5省市で展開を予定しています。
EVの普及が遅れている中、このタクシー事業は、EVの普及促進につながるものと考えられています。
最初はビンファストのEV2車種を計600台投入し、初乗り運賃は他社タクシーと同等の2万〜2万1000ドン(115〜120円)に設定されています。ビングループが運営する商業施設などでも利用でき、専用の配車アプリでも呼ぶことができます。
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