リチウムイオン電池は、現代の多くの電子機器や電気自動車に欠かせないエネルギー源となっています。
この記事では、電極材料の理論容量やエネルギー密度の計算方法についても詳しく説明します。理論値と実際のエネルギー密度の違いがどのように発生しているのか、そしてそれに影響を与える要因について解説します。
リチウムイオン電池とは
リチウムイオン電池とは、リチウムイオンを用いた充電式二次電池の一種で、現代の様々な電子機器や電気自動車に広く利用されています。
リチウムイオン電池は、高いエネルギー密度、長寿命、自己放電が少ないなどの特徴を持ち、スマートフォンやノートパソコン、電動工具、電気自動車など多くの用途で活躍しています。
充電時には、正極から負極へリチウムイオンが移動します。この過程で、リチウムイオンは負極に吸収され、電池内に蓄えられたエネルギーが増加します。放電時には、この過程が逆になり、負極から正極へリチウムイオンが移動し、電気エネルギーが電子機器に供給されます。
リチウムイオン電池は、エネルギー密度の向上や充放電効率の改善などの研究開発が続けられています。その開発の一端をご紹介します。
リチウムイオン電池の電極の組み合わせ
リチウムイオン電池に用いる材料候補として、以下のような正極・負極材料が存在します。
材料タイプ | 材料名 | 理論容量 (mAh/g) |
---|---|---|
正極材料(カソード) | リチウムコバルト酸化物 (LiCoO2) | 約 274mAh/g |
リチウムマンガン酸化物 (LiMn2O4) | 約 148mAh/g | |
リチウム鉄リン酸塩 (LiFePO4) | 約 170mAh/g | |
リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物 (NMC) | 約 160-200mAh/g | |
リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物 (NCA) | 約 200-260mAh/g | |
負極材料(アノード) | グラファイト(黒鉛) | 約 372mAh/g |
硬質炭 | 約 300-400mAh/g (実質的な容量は小さい) | |
リチウムチタン酸 (LTO) | 約 175 | |
シリコン | 約 4200mAh/g (サイクル寿命の問題あり) |
これらの材料の組み合わせと、最適な比率を調査していくことで、新しい電池を開発していくことになります。それぞれの材料には理論的な容量が存在し、正極と負極、どちらの容量も大きくなるように材料を改良していきます。
正極材料で最もエネルギー密度の高い材料はLiCoO2で、既に実用化され主流の材料となっています。一方で、負極はシリコン電極を用いると容量が大幅に上がりますが、課題も多く実用化には至っていません。
リチウムイオン電池のエネルギー密度は、正極・負極のリチウムイオンの収容量(Ah)と、動作電圧(V)をかけ合わせて決まります。理論容量及び動作電圧を勘案しながら、最適な組み合わせを探査することになります。
正極・負極活物質の比率が1:1の場合
正極と負極の活物質の合計が1gで、正極・負極の活物質を1:1で入れる場合、それぞれの活物質の質量は0.5gずつになります。
例として、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)を正極に、グラファイトを負極に使用した場合を計算します。
- リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)の理論容量:約 274 mAh/g
- グラファイトの理論容量:約 372 mAh/g
それぞれの活物質の質量を0.5gとして、理論容量(mAh/g)と質量(g)を掛けることで、理論容量(mAh)を計算します。
- リチウムコバルト酸化物の理論容量
274 mAh/g × 0.5 g = 137 mAh - グラファイトの理論容量
372 mAh/g × 0.5 g = 186 mAh
電池の容量は、正極と負極のうち、容量が低い方に制限されます。この場合、リチウムコバルト酸化物が制限要素となります。したがって、この電池のおおよその容量は137 mAhとなります。
正極・負極の比率を調整する
理論容量を大きくするためには、同じ1gの電池でも、正極と負極の比率を調整する必要があります。
以下のように、正極と負極の活物質の質量比をx : (1-x) と仮定します。
- リチウムコバルト酸化物の質量:x g
- グラファイトの質量:(1-x) g
次に、それぞれの活物質について、理論容量(mAh/g)と質量(g)を掛けることで、理論容量(mAh)を計算します。
- リチウムコバルト酸化物の理論容量
274 mAh/g × x g = 274x mAh - グラファイトの理論容量
372 mAh/g × (1-x) g = 372(1-x) mAh
電池の容量は、正極と負極のうち、容量が低い方に制限されます。したがって、両者の容量が等しくなるようなxの値を求める必要があります。
274x = 372(1-x)
この方程式を解くと、
x ≈ 0.577(リチウムコバルト酸化物の質量比) 1-x ≈ 0.423(グラファイトの質量比)
この場合、リチウムコバルト酸化物とグラファイトの最適な質量比は、おおよそ 0.577 : 0.423 となります。この比率で活物質を組み合わせた場合の電池容量は、274x または 372(1-x) で計算できます。
電池容量 ≈ 274 × 0.577 ≈ 157.9 mAh
したがって、正極と負極の活物質の合計が1gである場合、最適な質量比で組み合わせた電池のおおよその容量は157.9 mAhとなります。
電池のエネルギー密度
電池としての容量を示す際、mAh/gではなくWh/kgの単位で表記することが一般的です。
電池のエネルギー密度は、電池の容量と電圧によって決まります。リチウムイオン電池の場合、充放電時の平均電圧はおおよそ3.7Vです。エネルギー密度を計算するには、以下の式を使用します。
エネルギー密度(Wh/g)= 容量(Ah)× 電圧(V)/ 質量(g)
この電池のおおよそのエネルギー密度は約 581.61 Wh/kgとなります。
しかし、電池としての重量エネルギー密度は、この理論値のように大きくなりません。
リチウムイオン電池の一般的な容量は250Wh/kgとされており、将来電池として期待される全固体電池も300Wh/kgを超える程度で、今回計算した581Wh/kgには至りません。
理論エネルギー密度からの低下要因
実際のリチウムイオン電池のエネルギー密度が250Wh/kg程度で、理論値と比較して低いのは、いくつかの要因が関係しています。
電極以外の部分の重量
実際のリチウムイオン電池には、電解液、セパレーター、電極の集電体、パッケージなど、電極材料以外の部分も含まれています。これらの部分は、電池全体の質量に寄与しますが、エネルギーを蓄える能力はありません。そのため、実際のエネルギー密度は理論値より低くなります。
電極の充填密度と活物質利用率
電極の活物質は、集電体に塗布された形で使用されますが、その密度や活物質の利用率が100%ではありません。また、粒子間の接触や導電性の向上のために、導電剤やバインダーが添加されますが、添加物を加えると電極の質量が増えるため、エネルギー密度が低下します。
電池内部抵抗
電池の内部抵抗によって、電気エネルギーが熱エネルギーに変換され、エネルギー損失が発生します。実際のリチウムイオン電池では、電極や電解液、セパレーターなどの内部抵抗があり、エネルギー密度が理論値より低くなります。
これらの要因が組み合わさって、実際のリチウムイオン電池のエネルギー密度は理論値より低くなります。技術の進歩によって、電極材料の充填密度や活物質利用率が向上し、内部抵抗が減少し、エネルギー密度は今後さらに向上することが期待されています。しかし、理論値に達することは難しいでしょう。
まとめ
リチウムイオン電池の設計においては、適切な電極材料の選択や比率の設計、さらにはエネルギー密度と安全性の向上を目指すことが重要です。
理論エネルギー密度と実際のエネルギー密度の差を埋めるためには、電池内部抵抗の低減や電極の充填密度と活物質利用率の最適化が求められます。
実際の開発の現場では、電池の高性能化のためにより高度な研究開発が行われています。今後も動向を注視していきたいと思います。
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