CATLの開発する次世代LPF電池「M3P」とは何が凄いのか

リチウムイオン電池

近年、電気自動車(EV)の需要が急速に増えており、その需要を支えるためには高性能かつ低コストな電池技術が不可欠です。

中国のリチウムイオン電池メーカーであるCATL(寧徳時代新能源科技)は、次世代の電池技術「M3P」の開発に取り組んでおり、その性能とコスト面での優位性が注目されています。

本記事では、CATLのM3P電池について詳しく紹介します。

M3P電池とは

「M3P」電池は、中国大手のバッテリーメーカーCATLが開発中の次世代電池です。簡単に言えば、M3PはLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーの派生商品です。LFPは正極材料にニッケルやコバルトなどの高価な素材を使わない安価な電池です。

電池の種類化学組成材料の結晶構造エネルギー密度の向上
LFPリン酸鉄リチウム (LiFePO4)リチウム・鉄・リンなし
LMFPリン酸マンガンリチウム鉄 (LiMn_xFe_(1-x)PO4)鉄の一部がマンガンで置き換えられ、電位が高まるLFPのエネルギー密度を15~20%高める
M3PLMFPの改良版鉄(Fe)、マンガンの一部をマグネシウム、アルミニウム、亜鉛に置き換えLMFPと同等

LFP電池は、高価な素材(バッテリーメタル)を多く使わないことから、廉価版のEV用バッテリーとして重宝されており、既に多くの中国製EVに搭載されています。LFP電池については、以下の記事でも詳しく解説しています。

LFP電池の派生として、LMFP(リン酸マンガンリチウム鉄)電池があります。LMFPの結晶構造はLFPと同じで、鉄の一部がマンガンと入れ替わっています。マンガンはLFPの電位を高め、LMFPのエネルギー密度をLFPより15~20%高めることができます。

しかし、マンガンの添加は、イオン電導性と電子伝導性を低下させます。電子伝導性を改善させるためには、適切に鉄を残すことが必要(20~50%程度残すことが良いとされる)で、適度な鉄の含有は同時に耐久性も改善するとされています。

イオン電導性(電池セルの充放電時に、リチウムイオンが正極結晶中をどれだけ速く簡単に移動できるか)の低下はLMFPの課題として残ります。

LMFPにさらに別の金属元素を加えたのが、CATLが開発中の「M3P」です。

CATLのM3PはLMFPに加え、鉄やマンガンの一部をマグネシウム、アルミニウム、亜鉛に置き換えています。これらの元素は正極を安定させ、サイクル性能を向上させるためにしばしば使用されるため、理にかなっています。マグネシウムには、LFPに比べて貧弱になりがちなLMFPのイオン伝導性を向上させる効果があり、LMFPのデメリットを解消できるわけです。

電池が充電されたり放電されたりするとき、リチウムイオンは結晶構造の中をくねくねと動くきます。

マグネシウムとの八面体内の結合の角度と長さを変えることで、結晶構造にわずかな変化が生まれ、リチウムイオンが結晶構造内を出入りする経路がよりスムーズになり、バッテリーの充放電時に多くのリチウムが利用できるようになります。

要するに、M3PはLFPの改良版であり、鉄(Fe)がマグネシウム、亜鉛、アルミニウムの混合物に置き換えられたものです。M3Pバッテリーの正確な化学組成はまだ明らかにされていませんが、M3P電池の基本はリン酸鉄リチウム電池(LFP)であり、LMFPの改良版であることには間違いありません。

M3P電池は、LFPの派生電池LMFPの改良版(M3PはCATL社内の略称)

M3Pの優位性

M3P電池が注目を浴びている理由は、従来のリチウムイオン電池と同等の性能を実現しながら、コストが低いところにあります。

そもそもリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)は、従来のニッケルやコバルトをベースとする電池よりも性能が低いとされています。

CATLのリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)のエネルギー密度は210Wh/kgです。M3P電池は、LFPよりも最大で15%高いエネルギー密度をでき、その性能は従来のニッケルやコバルトをベースとする電池と同等です。

2024年現在、CATLのM3PのようなLMFP電池セルは現在、LFP電池セルより約5%コストが高いと推定されています。とはいえ、時間の経過とともにスケールメリットが効くようになり、かつLMFP電池の方がエネルギー密度が高いため材料が少なくて済むことから、理論的にはLMFP電池の方が低コストとなるはずです。

製品は未発表

製品の発表はまだ行われていません。前述したようにM3P電池はLFMP電池の派生であり、LFMP関連では既に中国電池メーカーのGotionが一番乗りで製品を発表しています。

CATLもM3Pバッテリーの市場投入を急ぎたいところです。CATLによれば、2023年中にM3P電池の量産と納入が開始される予定で、中国で販売するテスラモデル3などに搭載されると噂されています。

中国EV大手のBYDは2013年に関連研究を行いましたが、当時はサイクル寿命が短く内部抵抗が高かったため、2016年にLMFP電池の開発を打ち切ったそうです。しかし近年、BYDは再びLMFP電池が社内開発段階にあるとし、再注目を浴びています。Gotion High-techもLMFP電池関連の特許を明らかにしていますが、量産化の明確な計画はないと報じられています。

CATLとは

CATLは、中国のリチウムイオン電池業界でトップを走る企業です。2011年に中国の投資家グループを率いて、TDKのEV用バッテリー事業の株式85%を取得し、CATLという社名になりました。

当初、中国企業のBYDがEV市場をリードしていると考えられていましたが、CATLは急速に成長し、その技術的優位性を認めさせる存在となりました。

M3Pは2024年から車載として導入

CATLは、M3P電池の量産と納入を2023年中に開始する計画を立てています。実際の製品が市場に投入されるまで、さらなるテストや調整が行われるでしょうが、近い将来にM3P電池が実用化されることが期待されています。

実用化されても、LFPがLMFPに完全に取って代わられるのではないと考えます。M3PよりもLFPがサイクル寿命において優位性を維持できると想像されるため、LFPはあと数十年は存在し続けるでしょう。電池は用途によって求められる性能特性が異なり、NMC、LFPなど各電池には、用途に適した選択肢として存在し続ける意義があります。

Huaweiの車両に搭載されている

2024年2月には、CATLの開発したM3Pバッテリーが、奇瑞汽車(Chery)とファーウェイが共同開発したモデル「Luxeed S7」にすでに搭載されている、との報道もなされています。

テスラが中国版model3に採用か?

テスラはテスラは中国で生産される新型model3に、リン酸マンガン鉄リチウム (LMFP)を使用したCATL の新しいバッテリーセルを搭載すると報じられています。同じバッテリーセルは、2024 年に予定されている改良型モデルYにも使用されるとされています。

ハイパフォーマンス電池は、テスラの内製NMC系やパナソニックのNCA系の正極を用いた電池が用いられていますが、モデル3などの廉価モデルはCATLのLFPを利用しています。廉価版のLFPをM3Pに変更するために、テスラではM3P電池のテストが行われているようです。

電池セルの形状が変わると、電池パックも設計変更が必要

テスラは「モデルチェンジ」の概念が他社と異なります。同じ「モデル3」という車両であっても、頻繁に小改良を加えて販売しています。一方で、唯一手を加えていないのがバッテリーハウジングのサイズです。バッテリーハウジングを変更すると他のすべての部品に影響を与え、コストが高くなるためです。今後小改良の中でテスラが航続距離を延ばすのでれば、バッテリーハウジングではなく、セルの化学的性質を変更すると考えられます。

CATLは全固体電池に後ろ向き

CATLはLFPやナトリウムイオン電池をはじめ、液系のリチウムイオン電池の開発に力を入れています。

一方で全固体電池には後ろ向きの姿勢を示しています。CATLのZeng氏によれば、日本のトヨタ自動車やドイツのフォルクスワーゲンなども研究している全固固体電池は、技術的に実現可能で競争力のある製品を開発するのが難しいと感じているようです。

CATLはM3P電池の性能向上とコスト削減に注力し、市場での競争力を維持していく方針を採っています。

まとめ

CATLが開発する次世代電池「M3P」は、LFPバッテリーの派生であり、鉄をマグネシウム、亜鉛、アルミニウムの混合物に置き換えたリン酸鉄リチウムイオン電池です。

M3P電池はニッケルやコバルトベースの電池に比べて性能とコストが優れており、CATLが独自に開発しているLFPバッテリーに比べてもエネルギー密度が最大15%高いとされています。

2023年中に量産と納入が開始される予定であり、市場における競争力が期待されています。

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