あまり知られていませんが、中国は現在、世界最大の水素の需要国であり、世界全体の水素需要の約30%を中国が占めています。
水素の将来性をにらんで、中国の中央政府および地方政府は積極的に水素関連政策を推進しています。
この記事では、主にNEDO資料を読み解きながら、中国における水素燃料電池市場の最新動向を解説します。
中国の水素燃料電池政策の現状と影響
北京、上海、広東などの地域では、水素産業のサプライチェーン構築の取り組みが進められています。
既に、中国国内の企業間でのコスト競争も始まっています。
中国企業だけでなく、欧米などの海外企業も、積極的に中国の水素関連事業に参加しています。
中国の水素市場への参入や、現地化を通じてコスト削減を目指しています。
燃料電池自動車の普及状況
中国における水素燃料電池自動車の販売台数は、累計12,000台です。
2022年の中国における自動車販売台数が2686万台であったことを考えても、燃料電池自動車の販売台数は「あまりにも少ない数字」と言えるでしょう。
水素ステーションの普及状況
中国では日本と同じく、既に水素ステーションの稼働が始まっています。
- 2022年3月、国家発展改革委員会及び国家能源局は、「水素エネルギー産業発展の中長期計画」を公表。
- 2025年までに、燃料電池車5万台、グリーン水素製造年間10~20万トン、等の数値目標を設定。
インフラ整備を含めて、2022年3月に、中央政府が水素産業の発展計画を作成・公表しました。
目標は2025年までに5万台と控えめな目標設定ですが、現状の普及台数を考えると、この目標も達成できるかどうかは不透明です。
- 2020年9月、財政部等関連5部門は、燃料電池自動車の支援について、モデル都市群を選定し
- 車両・基幹部材のサプライチェーン整備に応じて補助金を拠出する政策を発表
- 現在までに、京津冀(北京・天津・河北省)、上海、広東など5か所のモデル都市群が選定
北京、天津、河北省、上海、広東を中心に、今後水素関連のサプライチェーン構築が進むと考えられます。
主要な地方政府の多くが、産業誘致を目的として、水素産業計画を発表しています。
各地方には、政策によって水素を基幹産業を発展させたいという思惑があります。2010年代後半、中国は政策として電動化を推し進め、中国国内では既に新車販売の3割が新エネ車(PHEV、BEV)となっています。
水素に関しても、各地域で独自の方針を打ち出し、水素関連企業を誘致しています。
中国企業の技術レベルは?
一方で、2023年現在、中国の燃料電池メーカーの技術レベルは高いとは言えません。
日韓で既に行われてきた技術開発を、中国全土で並列で進めている、全体感としてはカオス、有象無象という印象です。
中国の燃料電池メーカーの最新動向
中国の燃料電池メーカーをいくつかピックアップして紹介します。
主に、NEDO資料から、億華通(北京)、重塑集団(上海)、鴻基創能(広州)の3つのメーカーを抽出して紹介します。
北京億華通科技有限公司(SinoHytec)
SinoHytecは、燃料電池システムを販売するメーカーです。
2022年12月時点で、SinoHytecエンジンを搭載した水素燃料電池自動車は1083台。
公式のHPには、以下の3種類の燃料電池システムが紹介されています。
YHTG80プロ | YHTG120 | YHTG20+ | |
コールドスタート温度(℃) | -30 | -30 | -35 |
システム効率範囲 (%) | ≥ 45% | ≥ 45% | 100 |
スタック体積電力密度 (kW/L) | 3.5 (公称値) / 3.6 (ピーク値) | 3.5 (公称値) / 3.6 (ピーク値) | 3.5 (公称値) / 3.9 (ピーク値) |
ピーク電力(kW) | 82 | 122.2 | 261 |
外形寸法(mm) | 797×661×699 | 969×742×722 | 1200×850×865 |
高圧電源電圧(V) | 400~750 | 400~750 | 400~750 |
最大効率 (%) | 59.13 | 58.7 | 60 |
質量出力密度 (W/kg) | 555 (公称値) / 566 (ピーク値) | 701 (公称値) / 713 (ピーク値) | 757 (公称値) / 820 (ピーク値) |
体積電力密度 (W/L) | 494 (公称値) / 503 (ピーク値) | 662 (公称値) / 673 (ピーク値) | 635 (公称値) / 688 (ピーク値) |
起動/停止速度 (kW/s) | 12/12 | 14/14 | 32/64 |
低圧電源電圧(V) | 18~32 | 18~32 | 18~32 |
定格ポイント効率(%) | 41 | 42 | ≥ 45 |
定格電力(kW) | 80.5 | 120.2 | 241 |
防水性 | IP67 | IP67 | IP68 |
ピーク出力ごとに、82kW、122kW、261kWと選べる設計です。
用途に合わせて、これらのシステムを組み合わせて販売していくようです。
重塑集団(Refire)
Refireも、同様に出力違いの燃料電池システムを販売しています。
項目 | 120kW Fuel Cell System Heavy-Duty Applications | 110kW Fuel Cell System Heavy-Duty Applications | 63kW Fuel Cell System Light/Medium-Duty Applications | 88kW Fuel Cell System Mid/Heavy-Duty Applications |
---|---|---|---|---|
定格出力(kW) | 120 | 110 | 63 | 88 |
凍結開始温度(℃) | -30 | -30 | -30 | -30 |
質量パワー密度(W/kg) | – | 541 | 400 | 530 |
動作電圧(V) | 450-750(700-750出力制限) | 450-750 | 450-750 | 450-750 |
システム耐久性(h) | 30,000 | 15,000 | – | – |
設計寿命(h) | – | – | 15,000 | 15,000 |
寸法(mm) | 890x730x826 | 920×630×660 | 886×643×460 | 920×630×660 |
Refireは、高負荷・低負荷など、用途ごとにスタックを用意しています。
Heavy-Dutyは主に商用トラックへの搭載を想定しているようですが、ラインアップされている定格出力は63~120kWと大きくはありません。
2022年末、160kW ~ 220kW の出力範囲をもつPRISMA XXIIを発表し、このラインナップに加えるとしています。
鴻基創能科技有限公司(SinoHyKey)
SinoHyKeyは、CMMやMEAを販売するメーカーです。
燃料電池システムの中の、発電部材を供給するメーカーのようです。
1.5 A/cm2で動作する場合、SinoHyKeyのMEA 出力密度が 1 W/cm2を超えるとしています。
悪くはない数値ですが、耐久性の観点や、様々な条件下での動作を想定した場合に、他社と比べてどの程度の性能が得られるかは未知数です。
日系企業の動向
日系企業の中国での動向も、以下に紹介します。
トヨタ自動車
燃料電池で先行するトヨタも、中国での活動を加速させています。
近年のトヨタの活動は以下のようなものです。
- 2020年6月、トヨタ、北京億華通を含む6社で、中国における商用車向け燃料電池開発を行う合弁会社を北京に設立することを発表。
- 2021年3月、トヨタと北京億華通との間で、商用車向け燃料電池システムを生産する合弁会社の設立で合意。総投資額は80億円で、両社が折半出資。最初の製品は「MIRAI(ミライ)」の燃料電池システムをベースとし、2023年からシステム・スタックの生産を開始する計画。
- 2023年3月、中国の乗用車メーカーである海馬汽車にトヨタの燃料電池システムを提供すると発表。海馬汽車は、同システムを搭載したモデルの実証実験を2023年内に海南島で始める予定。
パナソニック
国内で家庭用燃料電池「エネファーム」用のモジュールを製造するパナソニックも、中国での取り組みを進めています。
- 2021年11月、現地コンテナ大手の中集安瑞科控股有限公司と提携し、水素燃料電池を使ったコンパクトな発電システムの開発・販売を発表。
- 2023年2月、江蘇省無錫市で、定置型燃料電池システム(5㎾×8台)を用いた実証試験を開始。太陽光発電やグリーン証書と組み合わせ、同社現地工場の電力や熱需要をカバーするゼロエミッション工場を実現。
まとめ
中国での水素関連の動向を紹介しました。
EVが中国で爆発的に売れている中で、水素自動車の売れ行きは鈍いです。
政府や地方はそれぞれで政策を進めており、今後水素需要は伸びてくるものと考えられます。
中国はマーケットが大きく、各国からしても無視できない市場であるため、今後の中国政策にも注視していく必要がありそうです。
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