近年、電気自動車(EV)の普及が進み、EVの核となるバッテリー技術も急速に進化しています。
EVのバッテリーには、マンガンという材料が使用されていますが、その生産国や企業、需給バランスなどはあまり知られていません。
本記事では、マンガンの基礎知識から、主要産出国、生産方法、そしてEV電池での利用について解説し、今後のマンガンの需給見通しについて考察します。
マンガンとは
マンガンは銀白色の遷移金属であり、空気中では酸化被膜ができます。
マンガン自体は、リチウムイオン電池における重要な貴金属の総称であるバッテリーメタル」には含まれていません。代表的なバッテリーメタルはリチウム(Li)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、グラファイト(C)の4つです。
ただし、各国の重要鉱物リストによれば、マンガンを重要鉱物としている国も存在します。
リチウムイオン電池の正極の材料として用いられることから、バッテリーに用いるメタルであることは間違いないのですが、リチウムやニッケル、コバルトのように、急激なEVの普及に伴う供給量不安が、マンガンでは問題になっていないため、メディアで大きく取り上げられることも価格が急騰することも起こっていません。
マンガン鉱石の産出国
マンガンは単体としては産出せず、「酸化マンガン鉱」や「炭酸マンガン鉱」、「珪酸マンガン」などの形態で産出されます。
マンガンの鉱石の埋蔵量は南アフリカが最も多く、鉱石の輸出量も7割を南アフリカが占めます。
マンガン鉱石輸出量
シェア | マンガン鉱石輸出量(2018), t | |
---|---|---|
南アフリカ | 68% | 15,525,760 |
ブラジル | 12% | 2,739,840 |
コートジボアール | 5% | 1,141,600 |
マレーシア | 2% | 456,640 |
ザンビア | 1% | 228,320 |
その他 | 12% | 2,739,840 |
マンガン鉱石の輸出量シェアは上のグラフと表の通りで、南アフリカとブラジルでそのほとんどを占めています。
マンガン鉱石の中でも、酸化マンガン鉱の産出が最も多く、南アフリカやオーストラリアで鉱石が採掘されています。鉱石の高品位品は通常40%~50%です。
全世界のマンガンの埋蔵量は年間輸出量の30倍以上とされており、採算性を度外視すればそれ以上の埋蔵量が期待されるため、枯渇の懸念は少ないと言えます。
マンガン生産量
マンガン鉱石を加工して、金属マンガンを作り、リチウムイオン電池などの製品に利用します。金属マンガンの生産の4割は中国で行われており、次いで南アフリカ、オーストラリア、ガーナ、ガボンなどで行われています。
マンガン生産量(2018),t | ||
---|---|---|
中国 | 39% | 26,913,510 |
南アフリカ | 22% | 15,181,980 |
オーストラリア | 10% | 6,900,900 |
ガーナ | 7% | 4,830,630 |
ガボン | 6% | 4,140,540 |
その他 | 15% | 10,351,350 |
マンガン鉱石から金属マンガンを生産する方式には、湿式法(電解法)と乾式法(電離法、テルミット法)がありますが、工業的には湿式法(電解法)が主流です。
電解法は、鉱石を焙焼後、硫酸に溶解し、電気分解することで金属マンガンを得ます。金属マンガンの生産コストは高く、そのノウハウの多くは中国が握っています。
リチウムイオン電池に利用されるマンガン
リチウムイオン電池(LIB)は、現在のEVやハイブリッド車の主力となるバッテリー技術です。リチウムイオン電池には、マンガン素材が使用されます。主なマンガン素材としては、電解二酸化マンガン(EMD)と四三酸化マンガン(Mn3O4)があります。
電解二酸化マンガン(EMD)
電解二酸化マンガン(EMD)は、リチウムイオン電池の正極材の一種であり、現在の車載タイプの主流となっています。EMDは、原料の二酸化マンガン鉱石を粉砕し、一酸化マンガンへの還元、硫酸への溶解、精製を経て得られる高純度硫酸マンガン液を電気分解することで製造されます。このEMDは、アルカリ乾電池やLIBの正極材の原料として使用されます。
日本では東ソーがこの素材の製造を行っています。EMDメーカーは正極材(LMO)メーカーに納入し、電池メーカーがこれを用いて電池化し、最終的に自動車メーカーに納入される流れとなります。
四三酸化マンガン
四三酸化マンガン(Mn3O4)も、LIBの正極材の原料として利用されます。
ブラウノックス®という商品名で東ソーが販売しており、多くはアルカリ乾電池用などで主に用いられていますが、研究開発用ととしてリチウムイオン電池にも用いられているようです。
マンガンの主要な用途はバッテリーではない
マンガンの主な用途は、製鋼用途にあります。粗鋼生産において、マンガンは脱酸・脱硫剤として使用され、鉄鋼の強度や特性の向上を目指すために、FeMnやSiMnといった鉄鋼添加剤として利用されます。
これにより、鋼材の品質向上や生産効率の向上が図られます。
EV用電池にもマンガンは必要ですが、粗鋼生産と比較した際には、その需要は小さいものです。
EV電池用マンガンの需給の見通し
マンガンの主要産出国である南アフリカや豪州などでの鉱石の採掘量は比較的安定しており、供給面において大きな問題は予測されません。しかし、金属マンガンの生産は中国が主要な生産国であり、その他の国での生産は限定的です。そのため、金属マンガンの供給は中国に大きく依存していると言えます。
技術の進化により、マンガン以外の素材がバッテリーに使用される可能性もあります。
例えば、ニッケルやコバルトをより多く使用したNCA(ニッケル・コバルト・アルミニウム)やNMC(ニッケル・マンガン・コバルト)型のバッテリーが開発されており、マンガンの需要に影響を与える可能性があります。
バッテリーの正極材料としてマンガンを添加したLFP電池なども登場していますが、このような取り組みでマンガンの需要が急増するとも考えにくく、今後、バッテリー関係でマンガンの需要が急激に増加することは考えにくいとの見方が大勢です。
まとめ
EV用の電池に用いられるマンガンの概要と需給の見通しを紹介しました。
現在のところ、マンガンの鉱石の供給は比較的安定しており、主要産出国での採掘量は維持されています。
将来的には、バッテリー技術の進歩や原材料の多様化により、マンガン以外の素材がバッテリーに使用される可能性もあります。
金属マンガンの生産は中国が主要な供給国であり、他の国での生産は限定的であることからも、供給リスクを抑えるためにも、マンガンを減らしていく方向に動くことも考えられます。
それでも、マンガンはEVバッテリーにおいて重要な要素であり、その需給の見通しは業界全体の成長と持続可能性に大きな影響を与える可能性があります。
リチウムやニッケル、コバルトといったバッテリーメタルと同様に、注目すべき素材と言えるでしょう。
関連記事
コメント