中国電池メーカーGotion(国軒高科)とは?開発するLMFP電池も解説

リチウムイオン電池

近年、EVの需要が急速に増える中、中国電池大手のGotion(国軒高科)が注目されています。Gotion(国軒高科)はLFP電池を始めとするEV電池事業を拡大しており、2023年時点で電池シェア世界8位を誇ります。

本記事では、Gotionの概要と、同社が開発するLMFP電池について解説します。

Gotion(国軒高科)は世界8位の電池メーカー

宏光 ミニ EV(Hongguang Mini EV)

Gotionは、中国の合肥市に本社を置くEV用バッテリーメーカーであり、2006年に設立されました。Gotionは手頃な価格の小型EVである宏光ミニEV(Hongguang Mini EV)などにバッテリーを供給することで成長を遂げました。現在は、フォルクスワーゲンなどの大手自動車メーカーにも電気自動車用バッテリーを供給しており、中国国内だけでなく海外進出にも積極的なメーカーとして知られています。

現在、Gotionの世界シェアは3%未満ですが、EV用バッテリー・サプライヤーとしては世界第8位、中国国内では第4位の位置を確保しています。

アジア圏での存在感も増してきており、ベトナムではVinグループのEV部門にもバッテリーを供給し、インドではタタ・モーターズにEVバッテリーを納入しています。

VWとの協業で積極的な海外進出を進める

Gotionはフォルクスワーゲンの支援を受けており、バッテリーの共同開発を行っています。フォルクスワーゲンはGotionの株式の24.77%を保有する筆頭株主(2023年)で、Gotionは主に「LFP電池」と呼ばれるタイプのバッテリーをフォルクスワーゲンに出荷しています。

LFP電池セルについて、Gotionは中国国外でもフォルクスワーゲンに供給しています。特に注目されているのが「ID.2」というEVです。「ID.2」は2025年に市販予定の小型EVで、VWゴルフなどと同じ価格帯の車両となるとされています。

フォルクスワーゲンが求めているのは、廉価版もプレミアムも含めたあらゆる車種で搭載可能な電池です。電池の共通化はどの自動車メーカーも課題としており、フォルクスワーゲングループの全電気自動車の80%には、今後ユニットセル方式(セル形状を統一し、セルの化学組成を変える)プラットフォームが採用されるとされています。

小型車用には廉価版のLFP電池セルを用い、プレミアムモデル用にはニッケル含有量の高いNCM正極を用いた電池セルや、全固体電池を搭載するとされています。

注目すべき技術「LMFP電池」とは?

GotionのLMFP電池

Gotionが開発中のバッテリー技術がLMFP(リン酸マンガンリチウム鉄)電池です。これは、前身となるLFP(リン酸鉄リチウム)電池をさらに進化させたものです。

LFP電池は、高価なニッケルやコバルトなどの素材の代わりに、鉄とリン酸を使用することでコストを抑えた廉価版リチウムイオン電池です。しかし、従来のNMC正極を用いるニッケル系のリチウムイオン電池に比べてLFP電池はエネルギー密度が低い(ニッケル系の電池セルが250Wh/kgのエネルギー密度を持つのに対して、LFPは160Wg/kg程度とされている)点に課題がありました。つまり、LFPは安くて性能が悪い電池だったのです。

LMFP電池は、従来のLFP電池のエネルギー密度を大きく向上させ、従来のニッケル系リチウムイオン電池と同等の性能とした

そこで、GotionはLFPにマンガンを添加することで、LMFP電池を開発しました。LMFP電池は、セルとしてのエネルギー密度が240 Wh/kgに向上し、廉価版でありながら従来のリチウムイオン電池と同等のエネルギー密度を実現しています。

電池セルを詰め込み、車に搭載する際には、「電池パック」という形状に収められます。

Gotionはこの「LMFP」セルを用いた電池パックは、従来の電池パックのエネルギー密度を上回る190 Wh/kgに達すると発表しています。Gotionは2024年にLMFP電池の量産を予定しており、EVの航続距離とコストの低下がさらに加速すると期待できます。

Gotionの競合企業

Gotionにとっての競合他社として注目されるのは、中国のEV用電池トップメーカーであるCATL(宁德时代)です。2022年の年間シェアでは、CATLが自動車用バッテリーの数量シェアで34%を占め、業界トップの地位を確立しています。

また、中国の第2位であるBYD、第3位であるCALB(寧徳赛维)も同じくGotionの競合です。これら中国のバッテリーメーカーは、車載電池市場の約60%のシェアを占め、韓国や日本の競合他社を圧倒しています。

グラフ赤系の色が中国、黄色が韓国、青が日本の企業。中国企業の存在感が目立つ。(2022)

中国のバッテリーメーカーが圧倒的なシェアを持つ背景には、中国国内でのEVの急速な普及があります。今後は、中国国外に進出することで、中国のバッテリーメーカーはグローバルな地位を確立しようとしているのです。

中国電池メーカーは国外進出を図る

今後の中国電池メーカーのさらなる躍進のためには、世界のEVメーカーとの強い絆を築く必要があります。中国「以外」でどれだけ電池を供給できるかが、Gotionや他の中国のバッテリーメーカーが競争を勝ち抜くための重要な要素となります。

Gotionの生産能力は2022年末時点で約100ギガワット時(GWh)と大規模ですが、生産能力のほとんどを中国国内に持っており、世界中のメーカーと供給関係を構築するには地理的優位性が低いという課題を抱えています。

近年、Gotionは米国市場での需要の拡大に対応するため、ミシガン州西部ビッグラピッズに米国初の大規模工場を建設する計画を立てています。新工場ではEV用などのリチウムイオン電池の中核部材である正極材と負極材を生産するとされています。

Gotionは2023年から2028年にかけて、200 GWhのリン酸鉄リチウム電池(LFP)を、米国の自動車メーカーに供給する予定です。具体的な自動車メーカー名は明らかにされていませんが、フォードやBMWが顧客として予想されます。

Gotionが米国進出を進める背景には、北米で生産されたEVや電池を優遇する「米インフレ抑制法」があります。EV購入者が税優遇を受けるには、電池部品の5割を北米で製造・組み立てることなどが必要で、GotionはEV電池材料の現地生産の比率を高め、自動車メーカーへの供給につなげる狙いがあります。

2023年12月には、タイでの電池生産も開始しました。モジュール・パックの組み立てと、バッテリーマネジメントシステムも含めた製造工程をもつ組み立て工場です。

タイのエネルギー・石油会社PTTグループの子会社であるNuovo Plusとの合弁会社運営されており、リン酸鉄リチウムイオン電池を中国新興メーカーのNETAに供給することが知られています。

Gotionは、ドイツのゲッティンゲンでバッテリーパックの製造も行っています。主にフォルクスワーゲン向けとされており、既に車載電池として車両に搭載され、欧州で販売されています。

中国企業は米国リスクも懸念

米国の市場に関して言うと、中国のバッテリーメーカーはリスクにも直面しています。米国は電池の技術的サプライチェーンから中国を切り離すことを模索しており、中国のバッテリーメーカーにとって部品の調達リスクや、予定していた納入先を失注するリスクもあります。

Gotionがミシガン州西部ビッグラピッズに建設する工場では、年間最大15万トンのリチウムイオン電池正極材と5万トンの負極材も生産するとされています。中国CATLも米国サウスカロライナ州に電池施設を建設する計画を進めており、2026年の操業開始を目指していますが、それぞれリスクを抱えた中での操業となりそうです。

バッテリー関連でも、米中関係は今後も注視が必要です。

まとめ

中国の電池メーカーGotionについて解説しました。

Gotionは、中国の大手リチウムイオン電池メーカーであり、フォルクスワーゲンをはじめとする大手自動車メーカーに電気自動車用バッテリーを供給しています。特にLMFP電池の開発に注力しており、航続距離やエネルギー密度の向上を実現しました。

中国のバッテリーメーカーは、CATLやCALBなどを含めて世界的なシェアを誇っており、海外市場での進出にも積極的です。しかし、米国が技術的サプライチェーンの切り離しを模索していることは、将来的なリスクとして考慮しなければなりません。

電気自動車の需要がますます高まる中、Gotionや他の中国のバッテリーメーカーが持つ技術と競争力は、EV産業の進歩に大きく寄与するものと期待されます。

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