ダイハツ工業の大規模な不正行為が明らかになりました。安全を保証するための車両の認証試験において、意図的に虚偽のデータや手法を使用して国の認証を不正に取得していた、とされています。
このダイハツの不正の原因は「短期開発スケジュールによる現場の負担」とされており、これはダイハツに限らず多くのメーカーで共通する課題です。
本記事では、ダイハツの不正は対岸の火事ではない、と考える筆者の考えを書き連ねたものです。
ダイハツの不正の原因は何か
ダイハツの不正について、調査委員会の報告資料では、具体的に以下の点が指摘されています。
- 過度に短期に設定された開発スケジュール
- 経営陣が現場の実態を十分把握していない
- 開発や商人の現場の負担が増大
ダイハツが販売する軽自動車は「薄利多売」の商売で、短期開発により開発コストを下げ、利益を押し上げてきました。その背反として、現場の負担が増大し、不正に手を染めざるを得ない状況に陥ったものと考えられています。
ダイハツは、この不正行為について深く反省し、二度と同じ過ちを繰り返さない決意を表明しています。また、国土交通省は、ダイハツの安全性能の確保と再発防止に向けて厳正に対処する方針です。
他社は「対岸の火事」ではない
ダイハツ以外の自動車メーカーは、この不正を「対岸の火事」と捉えるべきではありません。
短期開発のスケジュールに追われ、開発や認証の現場の負担が増大している、といったダイハツのような社内状況はダイハツに限らず、日本の自動車メーカーや、部品メーカーも同じような状況なのではないかと思います。 ダイハツの調査結果をみて「うちの職場と同じだ」と感じたメーカーの技術者も多いはずです。
メーカーの設計は、その日の仕事にひたすらに追われ、図面寸法や交差、安全率の意味を深く考える時間も与えられないまま出図、製品が量産されていきます。問題が起きればリコールをして頭を下げることになるにも関わらず、深く考える時間も与えられないまま製品は世に出ていくのです。
大胆な経営判断が必要
メーカー各社は、ダイハツを教訓に自社の社内状況をもう一度考え改める必要があるのではないでしょうか。開発スケジュールは守らなければならない、そのために技術者が命をすり減らして働く文化は、もうこのご時世にふさわしくないことに気付く必要があります。
自動車メーカーは、車両の発売時期を遅らせてでも、組織の倫理規範、コンプライアンス体制、リスク管理プロセスなどを見直すことをすべきです。設計現場の生の声を聞き、無理な開発スケジュールを見直し、働き方を考え直す時が来ているのです。
ダイハツは大きな代償を支払った
ダイハツの不正行為発覚は大きな経営上の影響を及ぼしています。特に、全車種の出荷停止は、企業自体の売上げに直接的な打撃を与えるとともに、サプライチェーンにも深刻な影響を及ぼす結果となりました。
滋賀県内では、ダイハツと直接取引のある企業が43社、さらに下請け取引企業が144社存在し、派生する売上高は合計で903億円にも上るとのことです。これは地域経済にとっても大きな影響を及ぼしており、地方自治体や国もその影響を軽減するための支援策を検討しています。
また、ダイハツの信頼性の低下は、海外市場においても顧客離れを招く可能性があると指摘されています。安全性や信頼性を損なう行為は、グローバルな市場においても重大な影響を与えるため、ダイハツにとっては国内外の市場におけるブランドイメージの損失が懸念されます。
国交省は、ダイハツの「グランマックス」と、トヨタにOEM供給する「タウンエース」、マツダ「ボンゴ」の型式指定を取り消す手続きを進めています。3車種の国内販売は合計で年7000台程度と影響は限定的ですが、型式指定の再取得には最低でも2カ月としています。過去にエンジンの燃費試験の不正で型式指定を取り消された日野自動車の大型トラックは、再取得まで10カ月を要しており、他の現行車種にも影響が拡大すれば、ダイハツは更に大きな代償を支払うことになります。
自動車メーカーに限った話ではない
ダイハツの不正は自動車メーカーによるものですが、同様の文化は部品メーカーや他業界の製造業においても見られます。造船、航空、素材、精密機器、など日本の製造業は多岐に渡りますが、いずれのメーカーでも「納期厳守」「その日の仕事に追われる」といった企業文化がはびこっています。
製品設計の現場の文化は、今一度生まれ変わる必要があるときを迎えていると感じます。
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