電池材料開発におけるX線CT測定とは何か?

リチウムイオン電池

X線CT測定、すなわちX線コンピュータ断層撮影は、医療分野だけでなく、電池材料開発などの工業的応用においてもその価値を示しています。この技術を用いることで、物体の内部構造を非破壊的に、かつ三次元的に可視化することが可能になります。

特に電池材料の分野では、電極の微細構造や内部の亀裂、欠陥といった重要な情報を得るために、X線CT測定が重要な役割を果たしています。

本記事では、X線CT測定の概要、そのメリット、サンプルの前処理の必要性、そして電池材料分析におけるその応用について解説します。

X線CT測定とは?

X線CT測定は、X線コンピュータ断層撮影(Computed Tomography)のことで、電池材料開発において重要な役割を果たします。X線を用いて物体をさまざまな角度から撮影し、そのデータを元に内部構造を三次元で再構成する方法です。電池材料の開発においては、X線CT測定を利用して電池の内部構造、例えば電極の微細構造や亀裂、欠陥などを非破壊で観察できます。

X線CTは、電池の設計段階から品質管理、さらにはリサイクルに至るまで、電池ライフサイクル全体にわたって有用なツールとして活用されています。電池の性能に影響を与える内部の物理的な問題点を特定したり、電池の劣化過程を観察し、そのメカニズムを理解することにも活用されています。

医療用のCTと区別するために、電池などの材料分析に用いられるX線CTを、X線マイクロCTと呼ぶこともあります。小さなサイズのサンプルの高解像度の内部画像を取得するために用いられるため、「マイクロ」と名付けられ、材料科学や工業用途で使用されます。

アウトプットイメージ

電池材料のX線CT(コンピュータ断層撮影)測定によって得られたイメージ(「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第 2 期)」 事業原簿【公開】 より引用)

電池材料のX線CT(コンピュータ断層撮影)測定によって得られたイメージです。X線CT装置を用いると、このような電池材料構造の三次元データが得られます。

(a)の画像は電池の断面の2次元画像で、電池材料の断面を様々なグレースケールで表示しています。グレースケールの違いは材料の密度の違いを反映しており、様々な構成要素が識別できるようになっています。この例では、明るいエリア(白色)が電解質固体(Solid Electrolyte, SE)で、暗いエリア(グレー)が正極材料(ニッケルコバルトマンガン酸化物、NCM)を示していると記載されています。

(b)の画像は3次元で再構築された電池の内部構造を表しています。色は異なる材料を区別するために使われており、このイメージでは黄色がNCM(正極材料)、赤色がSE(電解質固体)を示しています。

3Dイメージは材料間の空間関係や、材料の分布パターンをより詳細に観察するために用いられます。これらのX線CTイメージは、電池材料の研究開発において非常に重要です。電池の微細構造を正確に把握し、電池の性能に影響を与える可能性のある微細構造の不具合や非均一性を特定できます。

X線CTのメリット

電池材料の開発におけるX線CTのメリットを説明します。

  • 非破壊で検査が可能
  • 高解像度の3Dイメージが取得できる
  • リアルタイム分析

非破壊検査

X線CTはサンプルを傷つけることなく内部構造を観察できます。そのため、同じサンプルを繰り返し測定したり、時間経過による変化を追跡したりすることができます。

高解像度の3Dイメージ

微細な内部構造を立体的に見ることができ、電極や電解質などの構成要素の配置と分布を正確に評価できます。材料の微細な孔や亀裂、相界面などを観察できるため、電池の性能や耐久性に与える影響を理解する上で重要です。

リアルタイム分析

特定のX線CTシステムでは、実時間でのスキャンが可能で、動的な過程を観察することもできます。

X線CTのサンプルには前処理はいらない?

X線CTスキャンでは、一般にサンプルの前処理は最小限か、まったく必要ありません。これは、X線CTが非接触・非破壊的な検査手法であるためです。サンプルを物理的に変化させることなく内部構造を観察できます。

ただし、サンプルの加工(装置に入るサイズに切り取る)や固定は必要ですし、特定の特徴を強調するためにコントラストエージェントやマーキングを施すことがあります。

X線CTのデメリット

電池材料の開発におけるX線CTのデメリットを説明します。

  • コストが高い
  • サンプルサイズの制限
  • データ処理技術の難度が高い
  • 被ばくのリスク

コストが高い

高解像度X線CT装置は非常に高価であり、大学や研究機関でも限られた場所にしかないことが多いです。

サンプルサイズの制限

大きなサンプルをスキャンするには大型のCT装置が必要であり、これには更なるコストがかかります。

車両そのものをX線CT(コンピュータ断層撮影)技術を用いてスキャンし、3Dデータ化する取り組みも存在します。CTスキャンされた車両のデータは、ベンチマーク、CAEモデル化、組み立て状態の確認・評価、経年劣化の評価など、自動車業界において様々な分析と評価に用いられています。

データ処理用リソースが必要

CTデータの解釈は専門的な知識を要し、時には複雑な画像処理や解析技術が求められます。高解像度の3D画像データは非常に大きくなることがあり、処理、解析、保存には高いコンピュータリソースが必要です。特に高解像度でスキャンする場合、スキャンから3D再構築までに長い時間がかかることがあります。

被ばく

X線は放射線であるため、オペレーターの安全管理が必要です。また、サンプルが放射線に影響される可能性も考慮する必要があります。

余談

Tomography(トモグラフィー)は、物体の内部構造を断層画像として描出する技術のことです。この用語は、ギリシャ語の「tomos」(切断、断層)と「graphy」(記述すること)から派生しています。トモグラフィー技術を用いることで、物体の内部を物理的に切断することなく、その断面を詳細に観察することが可能になります。

トモグラフィーには様々な種類があり、本稿のX線CT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像法)、PET(陽電子放出断層撮影)などが含まれます。これらの技術は、医療分野での診断に広く利用されていますが、材料科学、地質学、考古学など、他の多くの分野でも応用されています。

まとめ

X線CT測定は、電池材料開発を含む多様な分野で非常に有用な技術です。その最大のメリットは、サンプルを傷つけることなく、その内部構造を高解像度で可視化できる点にあります。この技術によって、電池の設計、品質管理、さらにはリサイクルプロセスにおいて、内部の物理的問題点を特定し、電池性能の向上に貢献できます。

高価な装置コストやサンプルサイズの制限、データ処理の複雑さといったデメリットも存在します。それにもかかわらず、X線CT測定は材料科学における問題解決のための強力なツールであり続け、その進化とともにさらなる応用範囲の拡大が期待されています。

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某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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