中国市場のEV競争で日本が負けている現状を解説。勝つための方策はあるのか?

自動車業界

中国が、中国国内でのEV化戦略で成功を収めつつあります。

そのなかで、日本のOEMが中国市場でシェアを高めるためには、未曽有の困難に立ち向かわなければなりません。

本稿では、自動車産業に従事する私の目線から見た、日本のOEMが逆転勝利を収めるための戦略や勝機を考察し、危機をチャンスに変えるための情報を提供します。

危機感は本物

NIO Newsroomより

2023年春の上海モーターショウをきっかけに、日本の自動車メーカー(OEM)に電動化に関する危機感が大きく広がりました。

日本のOEMが中国市場でEVを拡販していくことは困難なのではないか?と感じ始めているのです。

中国の市場でEVを売ることが困難になってきている理由として、

  • 中国国内で自国の車に対する愛着が芽生えつつある
  • 日本の自動車メーカーが中国市場に参入することが困難になりつつある
  • 中国メーカーの商品性が大幅に向上している
  • EVの値下げ競争が激化しており、採算度外視でないと勝てなくなっている

などが挙げられます。

BYD Presents Several New Models at Auto Shanghai 2023(BYD公式)

私から見ても、中国の電動車の内装の高級感や、UX(ユーザエクスペリエンス)に対する力の入れようは、日本車を超えています。

私の周囲でも、EV(電気自動車)市場で中国に勝つことは、至難の業となるという肌感覚が広がっています。果たして、日本企業には勝機があるのでしょうか。

勝機はあるか?

現在のルールの延長線上では、中国市場で日本OEMが中国地場企業に勝ることはできません

少なくとも、2026年頃までは、中国市場で日本企業が躍進することは期待できません。

日本の自動車メーカーに勝つには、何かしらのゲームチェンジが必要です。

中国がEV転換によって大きく躍進したように、日本も新たなゲームチェンジを起こすことで逆転のチャンスを掴む可能性があります。

まずは、追い付く必要がある

先日、上海モーターショウで発表された、中国BYDの超低価格EV「Seagull」を紹介しました。

Seagullを調べるほど、廉価モデルだから品質が悪いという今までの常識は当てはまらないことが分かってきます。

日本のOEMの車両は、車両のグレードが下がるほど内装がチープになりますが、中国OEMはそのようなことがありません。低価格車両でも、居住空間の品質を高く保っています。

このように、車両そのものの品質でも劣っている部分があり、日本のOEMはまず追い付く必要があります。

勝つためには、技術的差別化が必要

日本のOEMが中国市場で地場企業に追いつき、最終的に「勝つ」ためには、商品性に寄与する技術的な差別化を図る必要があります。以下に具体的な要素を挙げてみます。

次世代電池

次世代電池の開発には、中国が積極的に取り組んでいます。中国のCATLはリチウムイオン電池のシェアで世界首位であり、日本企業の入る余地はなさそうにも見えます。

一方で、電池の中でも、日本企業が技術的に先を進んでいる分野もあります。

例えば、全固体電池は日本勢が優位に立っています。全固体電池を早期に投入することで、安全性とコストの観点から、商品として優位性を確保できます。

全固体電池は、既存のリチウムイオン電池に比べて

・液体電解質を使用せず、固体電解質を採用するため、漏れや発火のリスクが低くなる

・高いエネルギー密度を実現、長い航続距離を持つ電気自動車の実現に寄与する

などのメリットがあります。

全固体電池を搭載し、安全性と航続距離を改善したEVを投入することで、中国での市場を開拓することができるかもしれません。

自動運転

自動運転の登場も、自動車産業のゲームチェンジ要素です。

自動運転が普及すると、自動車は「所有するもの」という意識が薄れ、シェアリングが進みます。

車両価値の変化が期待され、日本のOEMが自動運転で優位に立つことができれば、中国市場で新たなシェアを持つことができます。

自動運転技術実現するために開発するべき技術には、以下のようなものがあります。

  • センサー技術: 車両周囲の状況を正確に把握するために、カメラ、レーダー、リダーセンサーなどのセンサー技術を駆使します。これらのセンサーは、周囲の障害物や車両の位置を検知し、適切な判断を下すために不可欠です。
  • マッピング技術: 高精度な地図データを活用することで、自動運転車両は正確な位置情報を得ることができます。マッピング技術は、運転経路のプランニングや車両の制御がスムーズに行わるためには必須の技術になります。
  • 制御システム: 自動運転車両は、センサーデータやマップ情報を元に、自動的に加速、ブレーキ、ハンドル操作などを制御します。高度な制御システムを開発することで、安全性と快適性を向上させることができます。
  • AIと機械学習: 自動運転車両は、状況に応じて適切な判断を行う必要があります。機械学習技術を活用することで、膨大なデータを解析し、パターンを学習して、自動運転を実現します。
  • 車載通信技術: 自動運転車両は、他の車両やインフラとの情報共有が重要です。

日本のOEMは、これらの自動運転技術を独自に開発するだけでなく、他の企業や研究機関との共同開発にも取り組むことが重要です。単一企業で勝てるほど、中国は簡単な市場ではなく、行政支援や、企業間の連携によってはじめて、中国でのシェアを獲得できる可能性が生まれてきます。

水素技術

水素技術にも、日本の勝機が見えます。

中国も水素に関心を持ち始めていますが、現状では日本と韓国が水素技術をグローバルでリードしています。

水素は、電気自動車よりも環境負荷の小さい「究極のエコカー」技術として選択肢にあがります。日本の自動車メーカーは、継続的に水素技術に注力し、優位性を保つ必要があります。

水素社会の実現のために、日本のOEMが取り組むべき具体的な要素は以下のようなものがあります。

  1. 水素燃料電池車(FCV)の開発:水素燃料電池車は電気エネルギーを水素と酸素の化学反応により発生する電力に変換し、ゼロエミッションで走行する車両です。日本のOEMは水素燃料電池車の開発に積極的に取り組んでおり、高い効率性と長距離走行可能性、短時間での給水が特徴です。この優位性を維持し、開発を継続する姿勢が必要です。
  2. インフラ整備:水素燃料電池車の普及には充電インフラの整備も不可欠です。日本での水素ステーション設置も必要ですが、中国市場でのシェアを獲得するためには、中国でも水素ステーション設置を後押しする必要があります。FCVが普及しなければ水素ステーションが増えない、と言い訳をしている場合ではありません。逆もまたしかりです。
  3. 水素の生産方法の改善:水素が燃料として使用される際、排出されるのは水のみであり、クリーンなエネルギーソースとして注目されています。一方で、水素製造が化石燃料由来の電力に依存する場合、決してゼロエミッションとは言い切れません。「どのように水素を作るのか」にも目を向けていく必要があります。

水素は、日本が技術的に先行する数少ない貴重な分野です。日本人として、水素関連技術を「ガラパゴス」などとバカにすることなく、支援をしていく必要があります。

リチウムイオン電池で経験した過ちを、二度繰り返さないために…

中国市場の減速

中国市場の減速も、日本の勝機となり得ます。

中国の市場が減速する要因があるとすれば、人口減少、アジア諸国の台頭、アフリカとの関係悪化などです。

人口減少は需要の低下を意味し、全世界での自動車販売における中国の需要の重要性は、相対的に低下します。

中国市場の減速は日本のOEMにとっても懸念材料ですが、その中にも勝機が存在します。以下に具体的な勝機について詳しく説明します。

  1. 人口減による高付加価値車需要の増加:中国は人口減少が進行しており、高所得層の割合が増えています。このような市場環境において、日本のOEMは高付加価値車に注力することで需要を取り込むことが期待できます。高品質や先進的なテクノロジーを備えた高級車やプレミアムブランドへの需要が増加する可能性があります。
  2. アジア諸国の台頭と新興市場の開拓:中国市場だけに依存せず、アジア諸国の台頭や新興市場への展開が重要です。特にタイやインドなどの成長著しいアジア市場では、電動化の需要が高まっています。日本のOEMが地域のニーズに合わせた製品開発や販売戦略を展開することで、市場シェアを拡大するチャンスがあります。
  3. 技術・品質の優位性による競争力維持:中国市場でも、品質や信頼性への要求が高まっています。日本のOEMは長い歴史と確かな品質を持っており、これを活かして競争力を維持することが、一種の勝機になり得ます。トヨタ自動車の車両のような長期耐久性能を満足した車両は、世界どこを探してもありません。トヨタ基準で耐久評価をすると、他OEMの車両は基準を満足できないと言われています。「日本車」というブランド(信頼)を、武器としていく必要があります。

中国の市場の減速は、需要の「種類」を変化させる可能性があります。高くても良いものを望む市場に変化したとき、日本にも勝機があります。

まとめ

電動化の時代はまだ始まったばかりであり、競争の激化は今後ますます進むでしょう。

世界で最も大きなEV市場である中国では、中国地場企業が急成長しており、日本OEMがこれらに勝ることは難しいでしょう。2026年頃までは、日本は中国に差をつけられ続けると予測されます。

日本OEMが中国市場を切り開くことができるとすれば、技術的なゲームチェンジ(全固体電池、自動運転、水素)によって顧客をつかみ取る技術的優位性と、少なくとも中国地場企業に負けない商品性が必要になります。

今後も、動向を注視したいと思います。

関連記事

自動車業界
この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

Montenegro Hasimotoをフォローする
シェアする
橋本総研.com

コメント

タイトルとURLをコピーしました