中国政府は、2020年9月に習近平主席が「中国はCO2排出について30年までにピークに達し、60年までのカーボンニュートラル(排出実質ゼロ)実現を目指して努力する」と宣言しました。
この目標を「3060目標」と呼び、中国政府はエネルギー構造の変革を通じて実現を目指しています。本記事では、3060目標の内容や取り組みについて詳しく解説します。
3060目標とは何か
3060目標は、中国政府がCO2排出に関して掲げた目標です。
具体的には、2030年までにカーボンピークアウト(排出量の最大値到達)を達成し、2060年までにカーボンニュートラル(排出実質ゼロ)を実現することを目指しています。
3060目標は、温室効果ガスの排出量ネットゼロを目指すことを初めて言及した点において、重要な宣言です。また、2015年6月提出の約束書の草案でCO2排出量のピークアウトが「2030年前後」としていたところを「2030年まで」と早期化しています。
日本との比較
日本 | 中国 | |
---|---|---|
炭素排出 ネットゼロ目標 | 2050年 | 2060年 |
カーボンピークアウト | 2013年 | 2030年 |
ピークアウトから ネットゼロまでの期間 | 37年 | 30年 |
日本政府も2020年秋に、「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにし、カーボンニュートラルを実現する脱炭素社会を目指す」と宣言しました。
中国と同様にカーボンニュートラルを目指す点では共通していますが、中国のネットゼロ目標は2060年であり、日本より10年遅くなります。
中国がネットゼロに後ろ向きであるか、というと決してそのようなことはなく、CO2ピークアウトからの期間は日本よりも短く設定されており、日本の場合37年であるのに対して、中国は30年です。
日本 | 中国 | |
---|---|---|
主な方針 | 脱石炭火力 | 脱石炭火力 太陽光・風力 |
原子力への見方 | 信頼回復への取り組む | 消極的 |
ネットゼロへの具体的なアプローチも異なります。
中国では、いまだに石炭火力での発電量が多いため、再生可能エネルギーの導入を促進し、石炭などの化石燃料の使用を減らすことに重点を置いています。
目下、中国では風力や太陽光など再生可能エネルギーが猛烈な勢いで導入されており、世界有数の再エネ王国となりつつあります。
中国での原子力発電は減速傾向
中国の原子力発電の目標は、5か年計画で2期連続で未達が続いています。これは安全性の懸念と、太陽光や風力のコスト競争力の向上によるもので、中国国内では原子力発電の勢いは衰えつつあります。
こうしたトレンドを加味しながら、都度新しい短期計画を策定していく必要があります。
一方で、日本では再エネ導入に適した場所が少ないという点で、原子力に頼らざるを得ない状況です。
再エネ導入よりも、原子力に対する国民の理解を得る事に注力することになるでしょう。
炭素排出とCO2排出は別目標
3060目標で掲げられている2060年のネットゼロは、炭素排出のネットゼロであり、CO2の排出ネットゼロは2050年に達成するとされています。
中国のエネルギー構造の変革
中国政府は3060目標の達成に向けて、「エネルギー構造の変革」を重要な取り組みとしています。
エネルギー構造の変革について、具体的には
- 再エネの積極的導入
- エネルギーキャリアの開発
が進められています。
再エネの積極的導入
中国は風力や太陽光など再生可能エネルギーの導入スピードが非常に速く、全世界の再エネのうち、約半分が中国で導入されています。
日本に比べても新規導入量が多く、2022年には、年間で3700万キロワットの風力と、8400万キロワットの太陽光が導入されています。
これは驚異的な実績です。日本での再エネの導入実績は、累計で風力500万キロワット、太陽光は8000万キロワットです。
日本の累計の7倍の風力を1年で導入し、日本の累計と同じだけの太陽光を1年で導入しているのです。
エネルギー輸送キャリアの開発
中国で再エネを利用する地域は、海岸沿いの都市(例: 北京、上海、広東省)が主要なエリアです。
一方、再エネの発電地域は、ウイグルや内モンゴルといった北西部や北部に集中しています。
中国では、超高圧送電や水素などを輸送キャリアとして活用して、効率よくエネルギーを輸送する取り組みが行われています。
達成可能な目標なのか?
「3060 目標」は達成可能性を熟慮して設定された目標です。
つまり、達成可能な目標であるとの見方が強いです。
中国は、国連に提出した目標を国際公約として位置付け、国家の威信を掛けて達成しなければならないとしています。
過去にも、排出原単位を40~45%削減する(2020年、05年比)とした環境目標を過達(48.4%)しており、国家目標が軽視される文化ではありません。
また、3060目標を策定するにあたり、能源研究所や社会科学院等の、国内トップレベルの13研究機関が 2019年1月から約1年半にかけて、省エネ、電源開発等 18 テーマについて共同研究を行い、複数のシナリオを検証して何年までにカーボンニュートラルが達成できるかを試算しています。
根拠に基づいた高度な試算から策定された計画のため、達成可能であるものが公表されていると考えられます。
とはいっても、この目標は簡単なものではありません。
目標達成のための2020~2050年のエネルギー関連新規投資額が138兆元(約 2,070 兆円)に上るとも試算されており、中国は簡単ではない数値目標を敢えて明記することを通じて「3060目標」達成に向けた意気込みを国内外に示しました。
なぜ中国は3060目標を掲げるのか?
中国が306目標を掲げるのは、ひとえに中国が持続可能な成長を続けるためです。
3060目標は、世界的な流れである「脱炭素化」の流れに乗りつつも、
- 持続可能な発展を阻害するエネルギー安全保障問題や大気汚染問題等を同時に解決する
- 国際競争力のある低炭素産業の育成を通じて,持続可能な発展に不可欠な支柱産業を手に入れる
ことを視野に入れています。
今後の展望
中国政府は3060目標の達成のために、より具体的な計画を策定できるかが焦点となります。
2021年3月には、中国国営の二大送配電会社のひとつである国家電網が「カーボンピークアウト、カーボンニュートラル行動計画」を発表しました。
この計画では、2030年までに
- 風力と太陽光の設備容量を10億キロワット以上
- 水力発電の設備容量を2億8千万キロワット
- 原子力発電の設備容量を8千万キロワット
とすることを明言しています。
まとめ
中国政府の3060目標は、2030年までにカーボンピークアウトし、2060年までにカーボンニュートラルを達成することを目指しています。再エネの導入、エネルギー構造の変革、エネルギー輸送技術の開発など、さまざまな取り組みが行われています。中国の取り組みは世界的な注目を集めており、その成果が持続可能なエネルギー発展と気候変動対策に大きな影響を与えることが期待されます。
参考文献
中国脱炭素「3060 目標」の「有言実行」に関する研究
中国のカーボンニュートラル政策の動向と今後の方向性
https://iti.or.jp/kikan127/127maie.pdf
カーボンニュートラルと国際的な政策の動向及び企業への影響
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/green_shakai/pdf/004_06_02.pdf
関連記事
コメント