インドの経済成長が進んでいます。
それに伴い、インドでの自動車販売も成長しており、自動車メーカーにとって、インドは軽視できる市場ではなくなってきています。
本稿では、インドにおける現状の自動車のシェアと実態、今後の動向を解説します。
インドってどんな国?
インドは人口14億人を抱え、GDP2兆9千億ドルで世界第6位の経済大国です。2023年には、インドの人口は中国を抜き世界一位となると予想されています。今後は、インドの経済成長と共に世界経済の進歩は進んでいくと言っても過言ではありません。
都市部では核家族化が進み、高学歴化が進んでいますが、地方と都市のギャップは大きくなっています。
人口が多いため、優秀な人材も多く存在し、トップ層では米国のビッグテックのCEOにインド人が多いことでも知られています。
インドは英語を話す人々が多く、人件費の低さからコスト競争力もあります。
これにより、米国の下請けとしての役割から始まり、近年はIT関連の技術的な強さを発揮しGDPの伸びを実現しています。
インドのGDPに占める製造業の割合は増えていかない、という課題も抱えています。
自動車産業も製造業であり、国家の成長に寄与していくためには、サービス業(含IT)を超える経済的な成長が必要です。
インドで製造業が成長しない背景には、開発した技術が生産や商業化に結び付きにくいというインド特有の文化があります。研究・開発した技術を商業化することに「あまり力を入れない」という印象があり、製造業における新技術がインドから生まれにくい要因ともされています。
インドの自動車市場の現状
2023年現在、インドは販売台数で世界第3位の自動車市場となっています。2022年度の国内新車販売台数は前年度比28.2%増の485万2582台でした。
このうち、SUVが半分以上を占め、高級車の売れ行きも好調です。
一方、日本の国内新車販売台数は前年度比4.0%増の438万5649台であり、販売台数ではインドの方が大きな市場と言えます。
ただし、インドでは自動車を所有している世帯はわずか8%にとどまっています。
インド全体で普及が見込まれるのは三輪や二輪車です。インド工業連盟の予測では、2030年までの普及率は二輪が25-35%、三輪が65-75%、自家用車が10-15%とされています。
インドでの自動車シェア
インドの自動車シェアは、その約半分をマルチ・スズキが占めています。
- マルチ・スズキ
- マヒンドラ
- ヒュンダイ
- タタ
- トヨタ
- 起亜
特に、1位のマルチ・スズキと2位の地場企業のマヒンドラについては、注目が必要です。
マルチ・スズキ
現在、マルチ・スズキがインドの自動車市場で40%以上の高いシェアを持っています。
マルチ・スズキは1980年代からインド市場に進出し、他のメーカーよりも早くインドに参入することを決めました。彼らは「どうせ出ていくなら他に誰も行っていないところへ行こう」という思いからインド進出を選んだと言われています。
インドで日本企業がビジネスをすることは「難しい」の一言に尽きます。私の印象では、インド人はプライドが高く、日本企業が「教えてあげる」というマインドでインドでのビジネスに挑んでも失敗することが多いです。成功するためには、インドで共に成長するパートナーを見つけ、日本のコア技術は日本で持ち、コア以外をインドのルールに則り現地生産する、という方法が有効です。スズキはこの30年でこれを実行して、インドでの地位を気付いてきました。
マヒンドラ
インド国内の地場メーカーでは、マヒンドラがシェア2位の位置についています。
マヒンドラはトラクター販売で世界最大手として知られている企業で、乗用車も製造しています。
マヒンドラのSUVの商品性はかなり高く、Mahindra XUV700は日本や欧州のメーカーとそん色ない質感を実現しています。
インテリアもレベルが高く、インド国内でのシェアを獲得するだけのポテンシャルがあることがよくわかります。
インドの自動車産業の今後
インド政府は環境への負荷を軽減し、持続可能な未来を築くための電動化戦略を掲げています。
モディ首相はカーボンニュートラルな国を目指し、2070年までにカーボンニュートラルを達成すると表明しています。
また、2060年までにはエネルギーの自給自足を目指しており、特に石炭や炭鉱労働者の雇用を守りたいとの考えを示しています。政府の目標は経済成長を犠牲にすることなく、温暖化問題を先進国の責任とする姿勢を変えることです。
2030年までには自動車の30%を電気自動車(EV)にするという目標が掲げられています。
ただし、インドではEVの普及には価格が課題となります。EVは、バッテリーの価格が車両価格の4割を占めており、高い価格が普及の障害となっています。
インドでは、初期投資(イニシャルコスト)が大きいと、導入のハードルが高くなる傾向にあります。EVはランニングコストは低いものの、初期投資で大きな額が必要になり、インドではなかなか受け入れられません。高い車両価格を改善しない事には、インドでのEV普及は難しいかもしれません。
諸外国の企業は、インドでのシェア獲得に躍起です。
テスラは年間生産能力50万台の電気自動車の工場を建設するためにインド政府と交渉を開始しました。この工場で生産するテスラ車は、より安価なプラットフォームを使った車両である可能性が高いです。メキシコ工場(ギガメキシコ)で生産されるような廉価版で、LPF電池などを使った300万円程度の価格を目指すとされています。
政府はバッテリーを抜きにして販売する、いわゆるバッテリースワップの導入も検討しています。
中国のNIOやCATLが、バッテリー交換ステーションを輸出するなども考えられます。
中国のバッテリーメーカーは、インドでの生産を推進しています。
中国電池大手のBYDは、インドのパートナーであるメガ・エンジニアリング・アンド・インフラストラクチャー(MEIL)と共同で、インドに電気自動車とバッテリーの生産施設を計画しています。
BYDはすでにインドでAtto 3とe6のEVモデルを販売しており、Sealも2023年中にはインド市場に投入されます。長期的には、BYDはインドで年間10万台の電気自動車を生産する計画です。
インドの水素戦略
インドでは、水素戦略にも注目が集まっています。
インド西部には砂漠地帯が広がっており、年間300日近く晴れていることから、太陽光の活用が活発です。太陽光発電はインドの発電量の約7%です。西部のグジャラート州の砂漠地帯では、大量の太陽光パネルを設置し太陽光発電がおこなわれています。
太陽光を利用して水を電気分解し、グリーン水素を生成するプロジェクトが進行しています。インドはコストを抑えて水素を生産できる国としても知られており、さらに水電解装置の国産化も進められていますが、現状ではまだ国内での生産が行われていません。
太陽光での水素製造が可能になれば、グリーン水素を活用した究極のエコカーが実現します。インドでは、EVを通り越して燃料電池自動車が普及する可能性もあります。
まとめ
インドの自動車産業について紹介しました。まとめると以下の通りです。
- インドは人口14億人を抱え、GDP2兆9千億ドルで世界第6位の経済大国である。
- インドの自動車市場は世界第3位であり、2022年度の国内新車販売台数は前年比28.2%増の485万2582台であった。
- インドでは自動車所有世帯の割合はわずか8%であり、普及が見込まれるのは三輪や二輪車である。
- マルチ・スズキがインドの自動車市場で最も高いシェアを持ち、マヒンドラが2位の地場企業として注目されている。
- インド政府は電動化戦略を掲げており、2030年までに自動車の30%を電気自動車にする目標があるが、価格が普及の障害となっている。
- インドでは水素戦略にも注目が集まっており、太陽光を利用したグリーン水素の生産が進行している。これにより、燃料電池自動車の普及も期待されている。
参考になれば幸いです。
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