タイの自動車産業は、東南アジア最大で、世界第10位の自動車生産国であり、「アジアのデトロイト」として知られています。タイにおいても、電動化の波は避けられず、新興EVメーカーもタイでの生産を始めています。
タイのEV業界の中でも、特に注目されるのが新興企業「ARUN PLUS」です。ARUN PLUSの事業の概要と、将来性を考察します。
ARUN PLUSとは
ARUN PLUSは、タイの国営石油会社である PTT Public Company Limited (PTT) の完全子会社です。PTTは全国で2,000以上のガソリンスタンドを運営する、国の支援を受けた石油・ガス複合企業であり、ARUN PLUSはPTTグループ内でEV(電気車)におけるバリューチェーン事業の中心として位置づけられています。
ARUN PLUSは車両の製造に関して、台湾に本拠を置く多国籍電子機器メーカー、Foxconn(鴻海精密工業)と提携しており、両社はアユタヤのロジャナ工業団地にホライズンプラス社を設立(Arun Plusが60%出資)し、EV組立施設を運営する計画です。鴻海精密工業は、EVの受託生産事業「HIM」を活用して生産を担当することとなっています。
鴻海のMIHが競争力を高める
鴻海は、EV量産に向け、世界の部品メーカーなど2000社以上と協力するプラットフォーム「MIH」を展開しています。MIHは、Mobility in Harmonyの略称とのことです。MIHを用いることで、ARUN PLUSなどのEV製造を委託する企業は、EVを簡単に開発・カスタマイズすることができます。
鴻海は、HIM上で展開されるオープンソースのオペレーティングシステム、標準化されたバッテリーシステム、さまざまなセンサーや接続オプションを、世界標準とすることを狙っており、ARUN PLUSはこのプラットフォーム上でEVを設計することで、短い期間で低コストに車両開発が可能です。スマホのような、従来では考えられないスピードで、毎年新型のEVが開発される世の中を、MIHは実現しようとしているのです。
電池事業における協業
ARUN PLUSは、EV用の電池の生産と技術開発のために、複数の電池会社と協業しています。
CATLとの協業
ARUN PLUSは、中国の大手電池メーカーであるCATLとの強力な提携を結んでいます。この提携を通じて、タイに新しい電池の工場を開設する計画が進められており、CATLはARUN PLUSにCell to Pack技術の供与を行うとされています。Cell to Pack技術を活用した麒麟電池を生産し、EVに搭載するものと報じされています。
CATLは世界最大手の電池メーカーであり、Arun Plusにとっては提携によってバッテリー技術が手に入ることは大きなアドバンテージになり得ます。特に麒麟電池などの低コスト電池が搭載されれば、国内外でも競争力のある価格で車両を提供できる可能性があります。
gotionとの協業
Arun Plusは別の電池メーカー、中国のGotionとも合弁会社「NV Gotion Co」を設立して協力関係を築いています。Arun Plusがこの合弁会社の株式の51%を保有し、残りの49%は「Gotion Singapore Pte. Ltd.」が保有しています。
この合弁会社はタイのラヨーンでの電池製造施設の建設に取り組んでおり、セル、モジュール、およびパック電池の製造を目指しています。予想される生産能力は年間2GWhで、2024年の下半期に生産を開始することを計画しています。
タイの自動車産業目標
タイは、東南アジア最大で世界第10位の自動車生産国として、長らく自動車産業が国の経済の重要な柱となっています。その産業は、タイ国内の重要な輸出収益と雇用を占めており、国内の自動車業界には60万人の従業員が働き、1万社以上の企業が関わっています。そのため、自動車製造のリーダーシップを維持するための取り組みは、国の経済全体にとって極めて重要です。
近年、自動車産業は電気車 (EV) へのシフトが進む中、タイもその流れを取り入れる必要があります。何も行動を起こさなければ、GDPの約10%に影響を与える可能性があるとされています。この背景を受けて、タイ政府は「30:30目標」という政策を打ち出しています。これは、2030年までに生産される自動車の30%を電気自動車にするという目標を示しています。
タイが「アジアのデトロイト」としての地位を維持したいと考えるならば、技術的な革新が不可欠です。そのため、東南アジアの深センとも言える技術エコシステムを構築する必要があるとされています。
まとめ
ARUN PLUSは、タイの国産自動車メーカーとしての地位を築くために奔走しています。
車両製造は鴻海と手を組み、バッテリーではCATLやGotionと提携することで、早いスピードで車両の市場投入を目指しているように見えます。
今後も注目が必要な企業です。
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