台湾の全固体電池メーカー、プロロジウムテクノロジー(輝能科技)は、全固体電池開発を手掛けるベンチャー企業の一つです。
近年大規模な資金調達を実現し、新興自動車メーカーと手を組む、量産設備投資を行うなど成長著しい企業でもあります。
この記事では、ProLogium Technologyの全固体電池の何が凄いのかについて解説します。
プロロジウム・テクノロジー(ProLogium Technology)とは
ProLogium Technology Co., Ltd.(輝能科技)は、2006年に創業した全固体電池メーカーです。台湾に本拠を置き、立ち位置としては「次世代電池ベンチャー」にあたります。2019年時点での従業員数は438名。家電メーカーへの電池供給から事業を開始、電気自動車メーカーへも電池の供給を拡大してきました。
特に、酸化物型の全固体電池の技術に強く、約500件の特許技術を出願しているとされています。
プロロジウムの全固体電池の何が凄いのか?
2013年、プロロジウムはシート状のバイポーラ型リチウム電池の商業化に成功しました。この電解質は、液体の代わりにセラミックを中心とした素材でできた固体電解質を用いています。
プロロジウムの全固体電池の何が凄いのか?を一言でまとめると以下のようになります。
- バイポーラ技術の導入により、電池を小型化している
- 固体酸化物型の電解質を用いている
バイポー構造
通常の電池は正極と負極、それぞれに電極板を用いて電子を出し入れしていますが、バイポーラ型は1枚の電極板の両面に電極活物質を設けることで、電池の小型化が可能となります。この技術をMulti-Axis Bipolar+(多軸バイポーラ)と呼び、関連特許を取得しています。
トヨタ自動車もバイポーラ型構造を液系リチウムイオン電池に採用しており、プロロジウムはこの思想の固体電池版と言えます。
酸化物型の電解質
現在、全固体電池の電解質の本命は「硫化物型」と「酸化物型」に大別できます。
プロロジウムの開発する酸化物型はセラミックを用いるもので、安全性が高く、硫化物型で懸念される硫化水素(独物)の発生も生じないとされています。一方で、エネルギー密度の高容量化が難しい、割れないセラミックス電解質を開発することが困難、など課題も多いです。
トヨタ自動車などの自動車メーカーが開発を進める全固体電池は、プロロジウムと異なる硫化物型です。電解質の種類が異なることで、利用先や安全性などで差別化が可能と考えられます。
2種類の電極構造を開発
プロロジウムは、2つの負極電極を開発しています。正極はいずれもNCM(ニッケル・マンガン・コバルト)で、電解質はいずれも固体の酸化物型のようです。
SiOx型負極
シリコン酸化物を用いる負極を搭載する電池は、エネルギー密度が高く、全固体電池の性能を向上させることができると考えられます。シリコンは、現在の液系のリチウムイオン電池でも負極に少量含まれていることが知られています。シリコンの添加でエネルギー密度が向上するためです。
一方で、シリコンは充放電時の膨張収縮が大きく、電池セルの割れに繋がり、劣化を引き起こしやすくなることでも知られています。
リチウム金属負極
リチウム金属を負極材料として用いる全固体電池も、シリコン負極と同様にエネルギー密度が高いことで知られます。シリコンと同様に、金属の熱膨張が大きいため、その熱膨張を抑えることが困難共言われています。
リチウム金属負極を用いた電池の研究開発は各社で行われており、エンパワー社は円筒セルにリチウム金属負極を用いた電池を開発、Blue Solutionsもリチウム金属負極を用いた電池の開発を行っています。
全固体電池技術で受賞
2019年、この全固体電池パック組立技術(Multi-Axis Bipolar+)により、米Edison Awards CeremonyのAutomotive Materials & Manufacturingで金賞を受賞。このMulti-Axis Bipolar+は、バイポーラ電池技術を用いて電極を直接積層し、直列接続と並列接続を可能にしたものです。
電池管理システムの設計とパッケージングを簡素化し、電池パックの効率を大幅に高め、全固体電池の優位性を高めることができます。
電池性能の比較
ProLogiumの全固体電池と、NIOやQuantumScapeのようなラボ実証程度の電池のエネルギー密度を比較しました。ラボ品と量産品を重量エネルギーだけで比較するのは量産品には酷ですが、公称値で並べるとこのようになります。
プロロジウムが開発済みの全固体電池の重量エネルギー密度の公称値は213[Wh/kg]です。現在主流とされるニッケル系リチウムイオン電池よりもエネルギー密度は小さく、他社の全固体電池と比較しても、Pプロロジウムのバイポーラ型固体電池の容量は見劣りします。
NIOとの提携
プロロジウムは、NIO社およびEnovate社と戦略的協力関係を結んでいます。
NIOは中国の新興EVメーカーで、全固体電池を搭載した車両を2022年にもリリースするとして話題となりました。NIOとプロロジウムの提携は、あくまでNIOの「試作車」への電池の提供についてであり、量産車に向けたものではありませんが、今後量産車への適用も期待されます。
VinFastとの提携
ベトナムの新興自動車メーカーであるVinFastも、プロロジウムをバッテリーパートナーとして緊密に協力している、と発表しています。2021年3月からは、Vingroupはプロロジウムと合弁会社を設立し、東南アジアの生産拠点で固体電池を生産しています。
Multi-Axis Bipolar+技術を使用して、ベトナム国内でCIM/CIP SSBパックを生産するライセンスを取得。全固体電池の電極接合体(正極、固体電解質、負極層で構成される半製品の電池セル)をアジアの製造拠点で大規模に製造しています。
2022年に1~2GWhの生産能力に達する見込みで、2023~2024年のVinFastのEVの量産スケジュールに対応する予定とのことです。
IoT向け電池も開発
プロロジウムは、家庭用機器やIoT向け電池の開発も行っています。
薄く曲げられる厚み0.38mmの電池セル「FLCB(FPC Lithium Ceramic Battery)」や、FLCBを積層してアルミパウチ容器で封止した「PLCB」、2018年のサンプル出荷を目指すエネルギー密度810Wh/Lの「ELCB」などを開発。
HTCよりFLCBが内蔵された5.9インチのAndroid端末HTC ONE Maxが発表されるなど、ヘッドホンやヘルメットの2次電池として実用化されています。
上場のうわさが絶えない
2023年に米国での株式公開を目指しているとされていますが、いまだ実現していません。常に上場の噂は絶えず、2021年の上半期には、2021年の後半にも米国で上場するとの見方がされていましたが、結局実現していません。
上場すれば時価総額は20億ドル、あるいは資金調達に見られる成長期待から30億ドルに達する見通しもあります。
まとめ
全固体電池分野での競争は熾烈です。
韓国のサムスンSDI、シリコンバレーに本社を置くクァンタム・スケープ、日本のトヨタ自動車などが固体電池の開発に力を入れています。今後も動向を注視していきます。
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