CATLは2024年3月15日金曜日に深セン証券取引所に年次報告書を提出しました。年次報告書には、CATLの研究開発体制や共同研究、開発した製品群やそのスペックなどが記載されており、興味深い情報源となります。
本稿では、CATLの年次レポートから、研究開発体制と、開発した製品群について抜き出して解説します。
開発した製品(麒麟電池・M3P・神興電池)
インテリジェント製品の研究開発と設計プラットフォームを通じて、当社は引き続き高比重エネルギー、超高速充電、高い安全性と長寿命の新製品を発売する。 電源電池に関しては、報告期間中、当社は高比重エネルギーで安全性の高い凝集電池、超高速充電の神興電池、第一世代のナトリウムイオン電池、三元電池とリン酸鉄リチウムの長所を併せ持つM3P電池を発表し、奇瑞のモデルで量産した。ピーク5Cの急速充電能力を持つキリン電池が理想科学工業と協力して量産された。国民のエネルギー補給への不安を解消することを出発点に、神興電池は常温で4Cの急速充電が可能になった。奇瑞、北汽新能源、東風兰都、広州汽車などが神興電池を搭載すると正式に発表した。
CATL年次報告書、四、主营业务分析(1)加大研发投入,持续推出新产品をDeepLにて和訳
ここでは、近年発表した各製品について触れられています。
- 高比重エネルギーで安全性の高い凝集電池
- 超高速充電の神興電池
- 第一世代のナトリウムイオン電池
- 三元電池とリン酸鉄リチウムの長所を併せ持つM3P電池
- ピーク5Cの急速充電能力を持つキリン電池
M3Pと麒麟電池
特に、M3Pと麒麟電池は既に実用化されており、車載電池として市場に出回っています。M3PはLFPの派生であるLMFP電池の改良型です。麒麟電池はバッテリーパック構造を工夫することで、車両により多くの電池を搭載できるようにするものです。
それ以外の電池については、目下開発中とされます。
ナトリウムイオン電池
ナトリウムイオン電池はリチウム代替として期待される電池で、リチウム資源枯渇に対するリスクヘッジとなります。近年、リチウム価格が低下していることから、ナトリウムイオン電池のもつメリットが少なくなっているとも噂されています。
神興電池
神興電池(Shenxing Superfast Charging Battery)は、その名の通り急速充電が可能な電池です。4Cという驚異的なレートで急速充電が実現されるという電池で、全固体電池を待たずして現実的な待ち時間でEVを急速充電できるようになることが期待されています。
凝集態電池
凝集態電池は、最大500Wh/kgのエネルギー密度を実現するという電池です。液系電解質を用いるリチウムイオン電池のエネルギー密度の上限が300Wh/kg程度とされる中で、半固体電池に近い思想で開発されている、夢のある電池です。
いずれも野心的な電池技術であり、今後の製品化が期待されます。
製品群とその性能
同社の電池製品は主に三元リチウムイオン電池、リン酸鉄リチウム電池などのルートを使用し、主に下流の新エネルギー自動車、エネルギー貯蔵システム、その他の電気製品などに使用される。
CATL年次報告書、四、主营业务分析((2) 占公司营业收入或营业利润 10%以上的行业、产品、地区、销售模式的情况 をDeepLにて和訳
製品群のスペックが以下の表のように示されています。
分類 | 形状 | エネルギー 密度 | 充電速度 | サイクル | 用途 |
---|---|---|---|---|---|
三元系リチウムイオン電池 | 四角 (BEV用) | 220~310 Wh/kg | 1C~4C | 2,000~6000回 | 乗用車 |
四角 (HEV用) | 100~130 Wh/kg | 1C~50C | 20,000回 | 乗用車 | |
パウチ 円筒型 | 190~340 Wh/kg | 1C~16C | 200~4,000回 | ポータブルエネルギー貯蔵、民生用、電動工具など | |
リン酸鉄リチウムイオン電池 | 四角形、 円筒型 | 165~200 Wh/kg | 1C~4C | 4,000~15,000回 | 乗用車、商用車、蓄電システム、船舶、二輪 |
パウチ | 140~190 Wh/kg | 0.5C~6C | 1000~15,000回 | エネルギー貯蔵、UPSなど |
興味深いのは、BEV用の三元系リチウムイオン電池のエネルギー密度が最大で310Wh/kgに達していることです。一般に、NMC系正極活物質を用いたリチウムイオン電池のエネルギー密度が、最大300Wh/kg付近で頭打ちすると考えられているなかで、非常に高いエネルギー密度を実現しています。
同様に、LFPについても最大で200Wh/kgを達成しており、電池構成(正極・負極の選択)次第では、他社には追随できない高性能な電池も供給可能である、ということが理解できます。
顧客情報
Li Auto、ZEEKR、NIO、AITO、BMWに競争力を与え、海外市場に関しては、BMW、ダイムラー、ステランティス、VW、ヒュンダイ、ホンダなど海外の大手自動車会社との新規アポイントメントを獲得した。
CATL年次報告書、三、核心竞争力分析(四)全面深化客户合作进をDeepLにて和訳
顧客リストが一部開示されていますが、CATLはほぼすべての自動車メーカーへの納入実績があり、これらはその一部であると考えられます。ただ、中国EV新興のシャオペンのように、何らかの事情でCATLとの関係が悪化している企業など例外もあります。
CATLの研究開発体制
会社の研究開発範囲は、材料の研究開発、製品の研究開発、エンジニアリング設計、テストおよび分析、インテリジェント製造、先端設備、情報システム、プロジェクト管理、リサイクルなどの分野に及んでいる。 報告期間中、当社は引き続き研究開発投資を増やし、研究開発プラットフォームを継続的に改善し、アップグレードしてきた。 電気化学と材料科学の深い理解に基づき、当社は強力な計算能力、先進的なアルゴリズム、膨大なデータに基づき、マルチフィジカルフィールド、マルチスケール、マルチパラメータプロセスモデリングとシミュレーションを採用しています。デジタルとインテリジェントな研究開発手段を通じて研究開発効率を向上させ、材料と材料システムの革新、システム構造革新、グリーン限界製造革新、業界技術発展をリードする。
CATL年次報告書、三、核心竞争力分析(一)研发体系先进をDeepLにて和訳
興味深いのは、計算技術を強く推していることです。
電池開発のほとんどは実験的トライ&エラーです。高性能電池の実現のためには、通常、活物質と導電助剤などを混ぜ合わせ電池を試作し、性能評価と分析を行う、という一連の実験を幾度となく繰り返すことになります。高性能な活物質の合成も、通常実験的に行われます。
一方で、CATLは計算技術を十分に活用していることを主張しています。データに基づいた予測や、マルチフィジックス、マルチスケールシミュレーションを活用した設計が進んでいるとされています。
研究開発投資
報告期間末現在、会社の研究開発技術者は20,604人で、そのうち博士号取得者は361名、修士号取得者は3,913名である。 会社は国内特許8,137件、外国特許1,850件を所有し、国内外特許19,500件が出願中である。同社は研究開発投資を増やし続けており、2023年の研究開発費は183億5,600万人民元に達し、前年比18.35%増となる。 先進的な研究開発方法論に基づき、同社に依存している。
CATL年次報告書、三、核心竞争力分析(一)研发体系先进をDeepLにて和訳
CATLの2023年の研究開発費は3848億円です。売り上げ高8兆2833億円に対して、約4.58%の比率です。
業界全体で見ると、電池メーカーや技術企業の中には、売上高の5%から10%を研究開発に再投資する企業が多いことを考えると、一般的な研究開発投資であることがわかります。
外部機関の利用
電気化学エネルギー貯蔵技術国家工程研究センター、福建省リチウムイオン電池企業重点実験室、中国国家適合性評価認定機構(CNAS)認定試験検証センター、21Cイノベーション実験室、未来エネルギー研究所(上海)、厦門研究所、江蘇研究所などの特色ある研究開発機構を設立し、「博士研究ステーション」、「福建省学術専門家ワークステーション」を設置した。上海交通大学、清華大学、復旦大学、中国科学院、その他の有名な大学や研究機関と共同で人材育成、科学技術研究を行っている。
CATL年次報告書、三、核心竞争力分析(一)研发体系先进をDeepLにて和訳
CATLの技術力について知る術は少ないですが、大学などとの共同研究において共著の論文がいくつかあります(筆者が検索しただけでも、少なくとも39件の論文が見つかりました)。これらから、CATLが何に注力したいと考えているのかを読み取ることもできます。以下は一例です。
まとめ
CATLの年次レポートを解説しました。車載電池で世界シェア首位を走るCATLからは学ぶべきことが多くあります。今後も情報を追っていきたいと思います。
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