業界関係者がジャパンモビリティショーで見るべき企業展示まとめ

日本

東京国際展示場にて、ジャパンモビリティショー(JMS)が開催されています。筆者も自動車業界で働くものとして、とても楽しみにしていたJMSに行ってきました。

この記事では、自動車業界の関係者が考える「見るべき企業展示」を紹介します。技術的観点から見ておいて損はない展示を、電池、パワエレ、タイヤ、水素に分けて紹介します。

バッテリー技術関連の展示

今回のジャパンモビリティショーは電気自動車(EV)が主戦場となって来るだけあり、バッテリー(電池)関連の企業の展示も多いです。

この記事では、技術的な面白さに主眼を置いているため、自動車メーカー各社の新型車両展示などは取り上げず、自動車に関わる技術について、技術者目線で面白いと思った内容をピックアップしています。

豊田自動織機

豊田自動織機は、トヨタと共同で開発したバイポーラニッケル水素電池を展示していました。現在、一部のトヨタ車に搭載されており、トヨタはこの電池の搭載車種を増やすため、生産能力を拡大しています。

ブースでは、バイポーラニッケル水素を展示しており、約30枚のセルを積み重ねて1つのモジュールに組み立て、それらは空冷で冷却されています。空冷冷却の間隔が約6枚または8枚のモジュールになり、約200Vの電圧を実現するようです。

リチウムイオンとニッケル水素の棲み分けについては、明確な理由が示されておらず、OEMが選択するようです。

SEVB

中国の電池メーカーであるSEVBと少し話す機会がありました。 彼らはsunwodaの自動車用電池メーカーで、LFPとNCMの両方を製造しており、角型と円筒の両方の形状に対応していると述べていました。さらに、モジュールも製造し、モジュールの製造に加えて、パックも製造しており、パックの部分はCell to packで製造していると述べていました。モジュールの方は、お客様のニーズに合わせて製造しており、中国のEVメーカーからは需要があるようです。

また、彼らは全固体電池とナトリウムイオン電池も開発しており、全固体電池は25年以降、ナトリウムイオン電池は24年に生産を開始する予定だと語っていました。電池パックやモジュールについては、日本のOEMにはまだ納入実績がなく、主に中国やシャオペンなどへの出荷が中心であると述べていました。

プライムアースEVエナジー

プライムアースEVエナジーの展示を観ました。ヤリス用のハイブリッドリチウム電池が展示されています。この電池はかなり大型である印象を受けました。

聞いたところによれば、プライムアースEVエナジーはPPES(プライム プラネット エナジー&ソリューションズ)との役割分担に関して、ハイブリッド用の電池をプライムアースEVエナジーが、EV用の電池をPPESが担当しているようです。

電池は元々はパナソニックの技術をベースにしているとのことですが、現在はそれぞれ別の会社として開発を行っており、パナソニックは円筒のみを製造しているようです。また、LFP(リン酸鉄リチウム電池)について尋ねたところ、現在は検討していないとのことで、LFPを採用する場合は最初にトヨタが導入し、その後にPPESなどが製造する可能性があると述べられました。

パナソニックは円筒型電池を製造しており、他の2社はそれぞれハイブリッド用とEV用に角型電池を使用していると説明されました。角型電池は円筒型と比べて内部構造が同じですが、圧縮してコンパクトにしているため、接触抵抗がわずかに低減するということでした。

ヴァレオ

ヴァレオは、「複合材バッテリーケース」という製品を展示していました。この製品は軽量でありながら強度を保ち、環境にも優しい特徴があります。スチール製のケースよりも30%軽量で、アルミニウム製と比較しても製造時のCO2排出量が最大50%削減されています。さらに、100%再生可能な熱可塑性樹脂を使用しているため、リサイクル時のCO2排出量も低減されています。この製品は、欧州委員会(EC)が2023年に発表した自動車設計・廃車管理に関する規則案にも対応しており、既に量産が開始されているとのことです。

熱可塑性樹脂を使用しており、成型は比較的容易で、バッテリーパックを収納するための部品のようです。今回持ち込まれたものは展示用の小型のものとのことです。2020年頃からメルセデスベンツのPHEV車両に採用されているとのこと。

豊田合成

豊田合成はペロブスカイト太陽電池の展示を行っていました。この太陽電池は、豊田合成とエネコートテクノロジーズが共同開発した次世代の太陽電池です。薄型でありながら高い発電効率を持ち、柔軟性も高いため、曲面などにも搭載することが可能です。再生可能エネルギーの普及に寄与することが期待されています。

パワーエレクトロニクス関連の展示

パワーエレクトロニクス関連の展示も豊富です。特にeAxleの展示は各社用意があり、比較しながら見ていくのがよさそうです。

BYD

BYDのeAxle(X in 1)が展示されています。印象的なのは、バッテリーマネジメントシステムと分電器がすべて内蔵された8 in 1のeAxle製品となっている点です。BYDの内製品で、現在は外販は検討されていないとのことです。

リアモーター用のバージョンでは最大240kWの出力が可能で、150kWのバージョンはドルフィン用のものです。8個のコンポーネントが合体しているとは思えないほど小型で、かつ高出力です。eAxle1基では2駆となります。4WDを検討する場合には、同じeAxleのうち、モーター、インバター、ディファレンシャル(3-in-1のシステム)をフロントに取り付けることで、4WDにすることができるそうです。何よりも、そのコンパクトさが印象的で、バッテリーの性能にも注目でき、BYDの技術力に感銘を受けました。

豊田自動織機

ジャパンモビリティショーでは、豊田自動織機が世界でトップシェアを誇るDC-DCコンバータを展示しました。同社はアメリカ・ジョージア州に初の海外生産工場を設立し、2025年7月から生産を開始する予定です。生産の増強や品目の拡大も検討しています。

ヴァレオ

ヴァレオは日本で初めての展示となる次世代統合パワートレイン「800V 6-in-1電動アクスル」を披露しました。この電動アクスルには、電動モータ、インバータ、減速機、電力配分装置、車載充電器、DC/DCコンバータが統合されており、柔軟な組み立てとアップグレードが可能です。

アイシンは新たなeAxleの開発に取り組んでおり、モーター、ギヤ、インバータを1つに統合し、さらに熱マネジメントシステムや電力変換器などの機能も加えた3in1の構成を目指しています。市場投入の目標は2027年です。

THK

THKは展示車両「LSR-05」を披露しました。この車両は、リアには93kW(800V仕様)の可変磁束型インホイールモータを2基、フロントには220kW(800V仕様)のモーターを搭載し、4輪ステア機能を備えています。アクティブサスペンションやMR流体減衰力可変ダンパー、電動ブレーキも採用され、快適な乗り心地と高い操縦安定性を提供します。また、室内にはステルスシートスライドシステムが採用され、完全なフラット化が実現されています。

日立アステモ

アステモは二輪車用のインバータや小型で高出力なe-Axleを展示していました。

アステモは二輪車の電動化に取り組んでおり、e-Axleについても同様の技術を提供しています。しかし、二輪車の場合、電池搭載箇所が少ないため、四輪よりもe-Axleの需要があるようで、3in1の製品が提供していることが伝えられました。

さらに、二輪車におけるバッテリーの搭載はより難しい課題であり、バッテリーを床下に収納する方法や、ドリンクホルダーのようなスペースに収納する方法があるとのことです。また、アステモはe-Axleだけでなく、単体のインバーターなども提供しているとのことです。

マーレ

マーレは電動モーター用のテクノロジーキットを展示しました。マーレのモジュラーシステムは、高出力かつ非接触の電力伝送を実現しています。

マーレはその他にも、水素エンジン用のピストンや、非接触充電などの技術展示も行っていました。

ボッシュ

ボッシュのe-Axleについても詳しく説明をうけました。e-Axleはインバータ、モーター、ディファレンシャル(減速器)を含む3-in-1の構成で提供されており、中国OEMが7-in-1などの複数機能を望む中で、その必要性について疑問が呈されました。

ボッシュは最初はe-AxleにインバータとDC-DCコンバータを一緒に組み込んでいたが、これにより電力損失が増大するとの問題が浮上。モーター以外にも電力を必要とする箇所があり、電力輸送の損失が生じる可能性があるため、インバータとコンバータを分けて配置する提案が行われています。

このコンバータはバッテリーチャージャーのような名称で、電力消費の多い箇所に配置されることが提案されています。

豊田合成

豊田合成の展示では、窒化ガリウムのパワー半導体が展示されていましたが、いつ量産化されるかについての具体的な情報は提供されませんでした。展示物にはMOSFET、パッケージ、ウェハ、DC-DCコンバーター回路がそれぞれ実装されていますが、説明員に話を聞くことができなかったので、多くの情報を得ることはできませんでした。

タイヤ関連の展示

横浜ゴム、ブリヂストン、住友ゴム工業がそれぞれ特徴的な技術を披露していました。

横浜ゴム

横浜ゴムは、タイヤの側面にフィンを付けることでエアロダイナミクスを利用し、車両の空気の流れをコントロールする技術を紹介していました。現在、横浜ゴムはマルチサイズ展開に対する課題もありますが、ダイハツ「コペン」向けのフィン付きタイヤを開発中で、2024年に投入予定です。

ブリヂストン

ブリヂストンでは、電気自動車向けのワイヤレス充電システムの実用化に取り組んでいます。このシステムは、道路から直接電力を集めることができ、走行中にモーター内で利用することができます。ブリヂストンは京都大学との産学官連携でこの技術を共同開発しており、低炭素社会の実現に貢献することを目指しています。既に実証実験が開始されているとのこと。

住友ゴム工業

住友ゴム工業(ダンロップ)は、独自のゴム技術を活用し、アクティブトレッドと呼ばれるタイヤを開発しています。このタイヤは外部環境の変化に応じて性質が変わり、水に触れると柔らかくなるという特性を持っています。住友ゴム工業のアクティブトレッドは水に触れることで柔軟性が増し、路面との密着性が向上し、優れたグリップ性能を発揮します。また、低温状態でも柔軟性を維持するため、冬の氷上での安全なドライブを実現することを目指しています。

水素関連

水素関連の展示は、多くは無いものの所々に見られたため、まとめて紹介します。

ボッシュ

ボッシュでは燃料電池スタックが展示されていました。燃料電池について、ボッシュは米国のニコラと中国のOEMに供給していることが紹介されました。

豊田合成

豊田合成の展示を見ました。展示されていたのは水素燃料電池(FC)タンクで、かなり大型のものが展示されていました。これらのタンクは炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とガラス繊維強化プラスチック(GFRP)で作られており、外側の色差は樹脂を硬化させた際に生じるものだと説明されました。

トヨタ紡織

燃料電池アシスト自転車が紹介されていました。この燃料電池自体は6×6cm程度のセルを使用しており、セルの枚数は30枚か40枚程度だと述べていました。ただし、セルのセパレーター以外の部分、例えばガス拡散層や触媒層などについては、基本的に市販品を使用しているようです。

リチウムイオンのNCM系バッテリーも自社で開発しており、エアクリーナーも自社製品であるとのことです。水素タンクは試験研究用のものを使用しているとしていました。

まとめ

業界関係者がジャパンモビリティショーで見るべき展示を紹介しました。それぞれの業務や興味によって、見るべき展示は異なると思いますし、ここに挙げてない展示でも面白いものが山ほどありました。

技術的な話もたくさんでき、写真もたくさん撮れましたが、期間中にもう一度くらい足を運んでみたいと思います。参考になれば幸いです。

関連記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました