EVシフトの減速は今後も続くのか?

トヨタ 中国

EVシフトの将来性についての検討は、多角的な視点からアプローチする必要があります。最近の動向を見ると、EV市場の成長が鈍化している兆候が見られますが、これは一時的な現象なのでしょうか、それとも長期的なトレンドの始まりなのでしょうか。

EVシフトの減速は今後も続くのか?

EVシフトがひと段落したなかで、今後もEVシフトのトレンドが続くのかどうかが積極的に議論されています。筆者の考えは以下の通りです。

  • 2030年頃まで、世界販売台数に占めるEV比率は30%程度を上限として維持
  • 2030年以降を見据えた長期目線では、50%近いEVシフトは避けられない

以下で詳しく解説します。

2030年ごろまで、販売台数に占めるEV比率は30%程度を維持

EV販売台数で世界一となる中国のNEV比率が、30%で頭打ちしていることがひとつの目安です。今後、中国以外の市場(日本、東南アジア、インド、欧州、北米)でもEV比率が高まると考えられますが、主要な市場では2030年頃までは30%が上限となることが予想されます。

中国の減速は今後の世界市場のベンチマークになる

中国新車販売台数に占めるNEV比率の推移(中国汽車工業会の情報をもとに当サイト作成)

中国における、新車販売に占めるNEV比率も伸び悩みしています。

国内で販売できないEVを東南アジアや欧州に輸出しており、今後その台数は増加していくと考えられます。

大規模な台数を持つ市場の中で、強力なEV化推進で数年先をいく中国が30%程度で頭打ちになっていることは、今後の世界市場の動向を予見していると言えます。今後数年は、2020年からの3年間のような急激なEV化は進まないと考えますが、2030年を境にさらに加速する可能性があります。

中国政府は、NEV比率の目標を2035年に50%としています。したがって、世界市場でも2035年に50%を達成するかどうかが現実的な目線と考えられます。

ノルウェーのように、早くからEV比率が100%に近づく特殊な市場も存在しますが、これはごく一部の例外です。ノルウェーの市場規模は非常に小さく、本当に注目すべきは環境問題へのインパクトの大きい市場です。

巨大市場・米国の減速が懸念される

中国と米国で、世界市場の63%を占める(自動車技術会の四輪車世界販売台数をもとに当サイト作成)

中国に次いで大きい市場である米国でも、EVシフト減速の懸念があります。米国におけるEVシフトの減速は、多くの懸念材料があるために囁かれ続けています。

以下は、米国におけるEVシフト減速の懸念材料です。

  • テスラをはじめとするEVメーカーの株価下落
  • 販売台数の伸び率の鈍化
  • 競争の激化(中国勢の参入)
  • 製造・開発コストの増大
  • 金利上昇による所有コストの増加

また、トランプ前大統領が再選される可能性や、バイデン政権のEV支援策の縮小、大手メーカーのEV戦略の修正などの政治的な要因も、米国でのEVシフトのペースを鈍化させる可能性があります。

長期目線では、EVシフトは避けられない

EV化の本質的な目的は「地球の温暖化を回避する」ことであり、化石燃料の利用を減らして温室効果ガスを減らすことにあります。地球の温暖化と石油資源の枯渇は避けられないトレンドであり、地球に人が住み続けるためには避けて通れない課題です。直近ではEVの商品性の不十分さがあり、EVシフトは落ち着きを見せていますが、技術開発が進むにつれてEVの商品性も向上することが考えられます。

EV化が進む技術的根拠

EVの商品性が向上すれば、EVシフトも加速すると考えられます。その根拠となる、今後実用化が期待される技術は以下のものがあります。

  • 全固体電池
  • 低価格リチウムイオン電池
  • SiCパワー半導体
  • ペロブスカイト型太陽電池
  • 自動運転技術

EVの商品性のなかで特にユーザ評判が悪いのは、短い航続距離と充電時間の長さ、高い価格です。

2030年ごろに全固体電池が実用化されると、航続距離と充電時間の課題は解決します。従来のリチウムイオン電池も、リン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)などの低価格電池の普及により、価格の低下も見込めます。高効率なSiCパワー半導体の登場や、低価格なペロブスカイト型太陽光発電の実現により、従来高価であったEVの価格は低下します。

自動運転技術の進歩は事故率を減らし、自動車に必要な材料強度の規制を緩和する可能性もあります。安価な材料が使えるようになり、自動車価格の低下も期待できます。自動運転を利用した「自走式製造ライン」により、自動車製造設備への投資が減ることも期待できます。

これら技術の実用化目途が2030年ごろとされていることから、2030年ごろを境にEVの商品性が向上し、消費者に受け入れられると考えます。

2035年ごろには、EVはガソリン車と同等の性能・価格を実現すると考えられ、この点を新車販売に占める比率50%としている中国の目線も納得できます。

消費者はEVを不便に思うのか?

Li AutoのフラッグシップSUVであるLi L9(ハイブリッド)、Li Autoはハイブリッド車を重点的に開発・販売し売り上げを伸ばしている(www.lixiang.comより)

現状、EVよりもハイブリッドが消費者にとって魅力的なようです。PHEVなどのハイブリッド車が販売を伸ばしていることも知られており、トヨタ自動車の決算からもハイブリッドの収益性の高さが伺えます。

ハイブリッドへの移行は、EVに対する消費者の不満を表現しているとも言えます。充電設備が必要で、航続距離に不安のある高価なEVよりも、ガソリンで走ることもできる安価なハイブリッドの方が、一般消費者には理にかなった選択肢です。

2024年には180の新モデルが投入される予定であり、EVの選択肢は広がっています。商品性次第ではEV市場を開拓していく可能性もありますが、技術的な観点からみると、直近数年でのブレイクスルーは見込めず、2030年頃までに徐々に商品性が向上すると考えられます。

結論

2030年頃までは、新車販売に占めるEVの割合は30%程度で頭打ちすると考えられます。一方で、EVシフトの減速は一時的なものです。長期的には市場がEVに置き換えられていくトレンドは変わらないと考えられます。

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